摂食障害とアレキシサイミア

摂食障害の症状は感情を麻痺させたり、なだめたり、回避したりするなどの役割を持っています。食べることのコントロールが難しいとき、向き合いたくない感情やどう扱っていいかわからない感情、気づかれていない感情があり、その感情に対処するために食事制限や過食・過食嘔吐の症状に助けてもらっているのです。
このことに関係していることの一つとして「アレキシサイミア」と呼ばれる状態があります。

目次

アレキシサイミアとは

「アレキシサイミア」は日本語で「失感情症」と訳されますが、感情を失っている状態ではなく、「自分の感情を認識しにくい」「感情を言葉にするのが苦手」という状態のことを指します。具体的には以下のような状態が挙げられます。

① 自分の感情や身体感覚に気づいたり区別することが難しい
 自分が何を感じているのかよくわからない。何か不快な気持ちを感じているけど、それが不安なのか怒りなのか区別ができない。

② 感情や身体感覚を言葉で表現することが難しい
 自分の感じている感情や感覚について適切な言葉で表現することができず、嫌な気持ち、良い気持ちなどの表現にとどまる。
 感情に伴って生じる身体感覚を身体的な問題と捉える。例えば、ストレスを感じても「イライラしている」と気づかず「胃が痛い」「頭が重い」といった身体感覚で捉える。

③ 貧弱な想像力や想像力の制限
 こころの中で様々なイメージを作り出すことが困難なため、 創作活動や空想が苦手。
 未来を思い描くのが難しいため、目標設定や計画を立てることが難しい。
 他人の感情を想像するのが難しい。

④ 内省(自分自身を客観視すること)が苦手
 感情や心理的なプロセスについて振り返ることが苦手。「なぜこう感じるのか?」といった自己洞察をあまり行わない。

⑤ 自分の内面より外的な事実に関心が向く
 出来事を体験したとき、どのような気持ちになったかよりも、その出来事の説明や解釈に重点を置いて表現する。

このように感情ベースの自己表現が少なく、他者の感情を想像することが難しいため、他者と感情的なつながりを持てず、人間関係が表面的なものにとどまってしまうことも多くなります。

こうした状態は、先天的な要因によるものもありますが、幼少期の環境やトラウマとなるような経験などが影響することもあります。例えば、感情を表現する機会が少なかったり、周囲から感情を否定されたり、感情を寄り添ってもらうような体験が少ない環境で育った場合、自然と「感情に鈍感」になってしまうことがあります。つらい体験に伴う言葉にできないほどの感情や表現されなかった感情は心の奥に封印され、感情を感じることをまるで知らないような状態になることもあります。

摂食障害とアレキシサイミアの関係

摂食障害の方も、上記のような先天的な要因、あるいは過去の環境やトラウマとなるような経験によって、感情を表現することが苦手だったり、感情を抑圧することで自分の身を守ってきている場合が多くあります。

認識されなかったり、表現されなかった感情は、こころの奥にずっと残り続けます。そして、蓄積した感情は何かのきっかけで爆発してしまい、感情のコントールができない状態になることがあります。感情のコントロールができないという経験をすると、ますます感情を感じたりや表現したりすることが怖くなり、感情を抑制しようとする傾向が強まってしまいます。

摂食障害の方は自分の感情をネガティブに捉えていることが多く、寂しさや疲れを感じることは弱さであり、怒りを感じることは悪であり、傷ついた気持ちを表現することは相手の迷惑になると思っている方が多いです。

このように、表現するべきではないとされた感情は本当の意味で癒されることはありません。過食や過食嘔吐で一時的には対処できたように見えても、過食や嘔吐をした罪悪感と混ざり、ますます向き合いたくないものになってしまうのです。

過食や過食嘔吐で感情を自己完結する習慣がつくと、他者と感情を共有する機会が減り、慢性的な孤独感が生じることもあります。
感情を指標にして試行錯誤を繰り返すことで、自分への信頼感が育ちます。感情を認識したり表現しないままでは自分への信頼感は育たないのです。そのため、新しい行動を起こすことが難しくなり、いつも何か足りない感じを感じてしまうかもしれません。

こうしてますます対処しなければならない感情が増えていくかもしれないのです。

なお、食事制限などの拒食は、ネガティブな感情が生じないようにするための、回避やコントロールの意味合いが強くなります。

こうした状態にどう向き合えばいいのでしょう?

アレキシサイミア傾向を改善することは、一朝一夕にはできません。ですが、少しずつ自分と向き合う習慣を続けることで、自分の感情に気づくことができるようになります。摂食障害の症状を使ってどんな感情に対処しようとしているのかがわかってくると、それだけでも症状は軽減していくのです。

例えば、自分の気持ちと向き合う方法として、自分の気持ちを振り返ることや日記などの記録をとること、そしてマインドフルネスなどがよく推奨されます。

ところが、アレキシサイミア傾向のある方はそもそも考えや感情の区別がつかないことが多いため、記録をつけても効果が感じづらいこともあります。また、摂食障害の症状にトラウマ体験などが関係している場合、マインドフルネスは不安を強めたり、パニック症状を引き起こしてしまうこともあるので、医師やカウンセラーに相談しながら行うことがとても大切です。

カウンセリングで一緒に振り返りをすると、特に初めのうちは多くの方が「大したことじゃないんですけど…」とか「こんなこと話すのは恥ずかしいんですけど…」と言いながらお話ししてくださいます。大したことじゃないと思っているそのことは、実はとても傷ついていることだったり、困っていることなのです。恥ずかしいと隠していた感じ方は、実は誰かに(一番は自分自身に)認められることを望んでいるのです。

カウンセリングで一緒に振り返りをすることで感情と他者と共有する機会を持つことにつながり、次第に自分の感じ方に興味を持つようになったり、肯定できるようになっていきます。

変化を起こすときには、まず現状を認識し、それを評価を手放して受け入れることが土台になります。摂食障害からの回復という変化を起こすための土台を一緒に作っていきましょう。

回復された方・変化を実感された方
実際の体験談を読む

初回無料の
オンラインカウンセリング

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次