摂食障害やトラウマによる心の反応は、不安や緊張、過去のつらい記憶、人との関係の難しさや自己否定感など、さまざまな形で日常に影響を及ぼします。
夜中に衝動的に食べてしまったり、過去の出来事を思い出して体が固まってしまったり──
そんな「心と体がばらばらになるような感覚」を経験したことがある方も少なくないでしょう。
そんなときに役立つのがグラウンディングです。
これは、心と体を“今この瞬間”に戻すための方法で、感情や衝動、トラウマ反応に飲み込まれそうなときに、自分を落ち着かせるための土台を作ることができます。
今回は、グラウンディングの基本、摂食障害との関わり、具体的な実践方法まで詳しくご紹介します。
日常に取り入れやすく、回復の過程で自分を支える力を育む内容になっています。

上畠 真紀
公認心理師、精神保健福祉士
経験
18年以上のカウンセリング経験(精神科・心療内科)
専門分野
摂食障害、気分障害、トラウマ、対人関係
グラウンディングとは?
グラウンディングとは、簡単に言うと「今ここ」に意識を戻すことです。
私たちは、過去のつらい体験や未来への不安に心を奪われると、体の感覚や心の声から離れてしまいがちです。
過食・嘔吐・食事制限、またはフラッシュバックや解離のような反応は、「感じたくない感情や身体感覚」から無意識に逃れる手段になっていることがあります。
グラウンディングは、その感情や体の感覚に安全に意識を向け直す練習であり、衝動や不安の波に巻き込まれる前に自分を落ち着ける力を養います。
グラウンディングの役割
- 急な衝動や不安、トラウマ反応に向き合うための「安全な土台」を作る
- 感情や身体感覚の鈍化を改善し、自己の感覚を取り戻す
- 「過去や未来に意識が飛ぶクセ」を減らす
摂食障害・トラウマと「今ここ」のつながり
摂食障害もトラウマも、単なる行動や記憶の問題ではなく、「心と体のつながり」が弱まってしまうことに深く関わっています。
感情からの逃避
不安、怒り、悲しみなどの強い感情が起きると、食べることで一時的に気を紛らわせたり、体をコントロールすることで安心感を得たりすることがあります。
これは無意識に「感情から逃れる手段」として働いています。
身体感覚の麻痺
満腹や空腹、疲れや痛みなどの体のサインを感じにくくなることがあります。
また、トラウマ反応が強い場合は、体の一部の感覚が消える・浮遊感があるなどの「解離的な反応」が起きることもあります。
「感じること」への怖さ
過去に傷ついた体験やトラウマは、「感情や身体感覚を感じること」自体に恐怖を生むことがあります。
その結果、無意識に感覚や感情を避ける行動が出やすくなります。
グラウンディングは、こうした状況で「今ここ」に戻ることで、心と体を少しずつ再びつなぎ直していく手段となります。
グラウンディングの効果
グラウンディングを実践することで、摂食障害やトラウマの回復において次のような効果が期待できます。
衝動やトラウマ反応のピークをやり過ごす
衝動的に食べたり、フラッシュバックに引き込まれそうになる瞬間も、まず「自分を落ち着ける時間」を作ることができます。
「5秒だけ深呼吸する」「ゆっくり10まで数える」「冷たい水で手を洗う」など、短い行動でOK。
“すぐに反応する”のではなく、わずかでも“待つ”時間を持つことが大切です。
その余白が、衝動や記憶に流されず選択肢を広げる第一歩になります。
身体感覚を取り戻す
ゆっくり座って、足の裏が床に触れる感覚を意識するだけでも、「今、自分はここにいる」という実感が少しずつ戻ってきます。
慣れてきたら「呼吸の温度」「肩の力の入り具合」などにも意識を広げてみましょう。
感情を観察できるようになる
強い不安や怒り、悲しみを、飲み込まれることなく客観的に見られるようになります。
「今、胸がざわざわしているな」と気づき、意識を向けるだけでも、感情の波から少し距離を取れます。
観察することは“感じないようにする”ことではなく、“安全な距離から見守る”練習です。
行動の選択肢を持てるようになる
グラウンディングで気持ちが少し落ち着くと、次の行動を選ぶ余裕が生まれます。
「私は今、どんな気持ちで食べたいと思っている?」
「今の体が求めているのは食べ物? それとも安心感?」
と問いかけてみましょう。
少しずつ、反射的な行動と自分を切り分けられるようになります。
安心感と自己肯定感の回復
「自分を落ち着けられる」という体験を重ねることで、少しずつ安心感が育ちます。
「前よりも冷静に対応できた」という小さな実感が積み重なることで、自己効力感や自己肯定感が回復していきます。
グラウンディングの例
状況や好みに合わせて、以下のタイプから使い分けてみてください。
① 体感覚に集中するタイプ
- 足裏で床を踏みしめ、感触や重さを感じる
- 手でカップや布などの感触を確かめる
- ゆっくり呼吸して、吸う息と吐く息の温度を感じる
② 五感を使うタイプ
- 強めの香りを嗅ぐ(ハーブティー、アロマなど)
- 冷たい水で手を洗う
- 音楽を1曲だけ集中して聴く
③ 頭を使うタイプ
- 周りにある青いものを5個探す
- 今日の日付・場所・時刻を声に出す
- 簡単な計算やしりとりをする
④ 混合型・日常に取り入れやすい方法
- 信号待ちや移動中に足裏の感覚に注意を向ける
- 移動中に周囲の音や匂いを意識する
- 手元のスマホやペンの感触を確かめる
日常に取り入れるコツ
・完璧を目指さない:1回で上手にやろうとせず、短時間でもOK
・習慣化する:朝起きたときや夜寝る前など、日常のタイミングに組み込む
・フレーズやメモを活用:「今、ここにいる」と書いた付箋を目に付く場所に貼る
・タイミングを選ぶ:衝動や不安が小さいうちに練習する方が効果的
注意点と工夫
グラウンディングは、症状を消すための「テクニック」ではなく、自分を安心させるための練習です。
焦って結果を求めすぎると、「できない」「落ち着かない」と感じて逆に不安が強まってしまうこともあります。
はじめはうまくいかなくて当然。
少しずつ「自分の心と体に戻る感覚」を育てていくものだと捉えてみてください。
・「無理に落ち着こう」と頑張りすぎない「落ち着かなきゃ」「リラックスしなきゃ」と思うほど、体が緊張してしまうことがあります。
「今はまだ落ち着けないな」と気づくだけでも十分です。
・強い感情や記憶が出てきたときは無理をしない
グラウンディングの最中に、過去の記憶や身体反応が浮かぶこともあります。
そのときは、無理に続けようとせず、信頼できる人や専門家にサポートを求めてください。
・「何も感じられない」ときも焦らない
長く感情や体感覚を切り離して生きてきた場合、最初は何も感じられないのが自然です。
「少しでも意識を向けられた」ことを認めるだけで十分です。
・感情を消すことが目的ではない
「不安をなくす」「衝動を止める」ことが目的ではありません。
感情や衝動を“感じたまま”でも大丈夫だと思える力を育てることが目的です。
「不安なままでも、今ここにいられる」──この感覚が、回復の土台になります。
・習慣の中に少しずつ取り入れる
いざ衝動が強まった時だけ使うよりも、日常の穏やかな時間に練習しておくほうが効果的です。
グラウンディングと他の方法の組み合わせ
グラウンディングは単体でも有効ですが、センタリングや呼吸法、軽いストレッチなどと組み合わせるとさらに効果的です。
例:トラウマ反応・衝動時のステップ
- 足裏で床を感じる(グラウンディング)
- 背骨の軸を意識し、呼吸に集中する(センタリング)
- 手を軽く動かして感覚を確認する
- 少し落ち着いたら、別の行動を選ぶ
この流れを日常で練習しておくことで、「反応が起きたときにどう動くか」を体が覚え、安心感が増していきます。
最後に
グラウンディングは、感情や衝動、トラウマ反応に巻き込まれそうなとき、自分を落ち着かせるための土台になります。
一度に完璧にやろうとせず、「今ここ」に戻る小さな練習を、日々の生活に少しずつ取り入れてみてください。
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