不安で先延ばしにする心理とは?「もっともらしい理由」を卒業して心を軽くする方法

日常の中で、「やらなければいけない」と分かっているのに、どうしても手がつけられない。
そんな「心に引っかかっている宿題」を抱えてはいませんか?

例えば、身体の小さな違和感、ずっと返せていない連絡、あるいは将来への漠然とした不安。
「まだ大丈夫」「今は忙しいから」と自分に言い聞かせつつ、ふとした瞬間に胸をかすめる不安に、そっとフタを閉めてしまう。

今日は、そんな「不安の先延ばし」のメカニズムと、そこから勇気を持って一歩踏み出したあるクライアントさんの物語を通して、本当の意味で自分を大切にする方法についてお話しします。

この記事を書いた人

上畠 真紀
公認心理師、精神保健福祉士

経験
18年以上のカウンセリング経験(精神科・心療内科)
専門分野
摂食障害、気分障害、トラウマ、対人関係

目次

私たちが「もっともらしい理由」を作ってしまう心理的背景

以前、あるクライアントさんがこんな葛藤を抱えていらっしゃいました。

体調に違和感があり、専門家からは「もし症状が続くようなら、次は大きな病院で詳しく調べてみましょうね」と言われていたそうです。一度はお薬で落ち着いたものの、時折ふとした瞬間に顔を出す違和感。
本来ならすぐに行動すべきタイミングでしたが、彼女はこう仰っていました。

「だいぶ回復しているし、わざわざ大きな病院へ行くほどでもないと思うんです」
「今は仕事が立て込んでいて。落ち着いたら行こうと思っています」

これらは、どれも非常に「もっともらしい理由」です。

脳が嫌がる「変化」と現状維持バイアス

実は、私たちの脳には「変化」を嫌い、現状を維持しようとする本能があります。
たとえ現状に不安があったとしても、新しい行動を起こして「怖い結果」を知るよりは、今のままいた方が「安全」だと脳が錯覚してしまうのです。

「動かないための正論」で自分を守る心の仕組み

特に恐怖や不安が強いとき、脳は全力で「今動かないための正論」を作り出します。彼女が並べていた理由は、今の自分を傷つかないように守るための「盾」だったのです。

脳が「動かないための正論」を作るのは、あなたがこれ以上傷つかないための防衛本能でもあります。

先延ばしが心のエネルギーを奪う「ツァイガルニク効果」とは?

けれど、「見ないふり」をして問題を先延ばしにしている間、私たちは膨大なこころのエネルギーを消費し続けています。

未完了のタスクが脳のメモリーを占領する

心理学には、「ツァイガルニク効果」という言葉があります。

人は完了した事柄よりも、中断していることや未完了の事柄の方をより強く記憶し、脳が勝手に考え続けてしまうという現象です。

「あ、またあのことが頭をよぎった(でも見なかったことにしよう)」 「明日こそ向き合おう(でもやっぱり怖いから後にしよう)」

このように、頭の片隅に「未完了のタスク」があるだけで、脳のメモリーは常に占領されてしまいます。
そして、私たちの集中力や幸福感は少しずつ削られていきます。

「見ないふり」をしている間も疲れは溜まっていく

先延ばしにすればするほど、不安は心の中で静かに根を張り、私たちの集中力や幸福感は少しずつ削られていきます。解決のために必要なはずのエネルギーを、ただ「悩むこと」だけに使い果たしてしまうのです。

その理由は「自分を守る盾」か「自分を大切にする投資」か

ここで一度、立ち止まって自分自身に問いかけてみてほしいのです。 今、あなたが何かを先延ばしにするために並べている理由は、どちらの性質を持っているでしょうか。

  • 自分を「守る」ための理由(盾):これ以上傷つきたくない、怖い現実を見たくないという「防衛」の心理から生まれる理由です。今の平穏を維持するための「盾」にはなりますが、不安の種を放置することになり、結果的に「不安でいる時間」を長く引き延ばしてしまいます。
  • 自分を「大切にする」ための理由(投資): 未来の自分が健やかに、安心して過ごせる時間を確保するための理由です。一時的な負荷(現実を確認する怖さ)はかかりますが、問題を最小限に留め、根本的な解決へ向かわせる「自分への誠実さ」「自分を大切にする心」から生まれる選択です。

不安という名の檻(おり)から自分を解放する

「先延ばしにすること」「向き合わないこと」で自分を保護しているつもりでも、実は知らず知らずのうちに、不安という名の檻(おり)の中に自分を閉じ込めてしまっているのかもしれません。

盾を置いて檻の外へ出るのは、確かに勇気がいることです。
けれど、その檻の鍵を開けられるのも、また自分自身です。

未来の自分に「安心できる時間」をプレゼントする視点

「気がかりなことを、気がかりなままにしておかないこと」。
それは、今の怖さを引き受けてでも、未来の自分に『安心できる時間』をプレゼントする、何よりの自己投資。そう捉え直してみることで、閉じ込めていた自分を解放する一歩が、少しだけ踏み出しやすくなるはずです。

もちろん、あなたが「盾」を構えて自分を守ろうとするのは、決して悪いことではありません。不安は、あなたがこれ以上傷つかないようにと必死に警告してくれている「用心棒」のような存在でもあります。

不安そのものをどう受け入れ、味方につけていけばいいのか。
その基本的な心の持ち方については、こちらの記事もぜひ併せて読んでみてくださいね。

結果が「良い・悪い」に関わらず、向き合うことが最短ルートな理由

「もし、向き合った結果が悪いものだったら……」 そう思うと、足がすくんでしまうのは当然のことです。私たちは「悪い知らせ」を聞くくらいなら、今のままグレーな状態でいた方がマシだと感じてしまうことがあります。

正体不明の幽霊を、対処すべき課題に変える

けれど、本当の恐怖は「悪い結果」そのものではなく、「何が起きているか正確にわからない」という不透明さの中にあります。

想像してみてください。真っ暗な部屋で何かが動く音がしたら、誰だってパニックになります。でも、電気をつけて「あ、カーテンが揺れているだけだ」と分かれば、すぐに対処できますよね。

向き合うとは、この「電気をつける」作業です。 良い結果なら不安はその場で消え去ります。たとえ望まない結果であったとしても、正体不明の「幽霊」と戦い続ける消耗戦を終わらせ、「これから何をすべきか」という具体的な対策にエネルギーを全投入できるようになります。

「わからない」状態を終わらせることが最大の効率

「何もせず休んでいるはずなのに、頭のどこかでずっと気がかりなことが回っている」という状態よりも、たとえ課題に取り組んでいたとしても「次に何をすればいいか、手順が明確になっている」状態の方が、脳のパニック(アラート)は収まりやすくなります。

「何が起きているかわからない」状態で震えているのは、地図を持たずに霧の中を彷徨っているようなもの。 一方で、たとえ険しい道であっても、地図(現状の把握)を手に入れ、進む方向(対策)が決まれば、人は驚くほど強く、前向きになれる力を備えています。

「わからない」という不透明な時間を短縮すること。それは、あなたの心のエネルギーを無駄遣いせず、健やかに保つための賢い戦略なのです。

扉を開けた先にあった、本当の静寂

クライアントさんは、「向き合うことを先延ばしにしないことが、結果的に自分を一番楽にする」と気づかれました。そして、勇気を出してすぐに行動されました。

行動の後にしか訪れない「本当の自己信頼」

結果は、「大丈夫、順調ですよ」という、晴れやかなものでした。

受診を終えた彼女の声は、とても軽やかでした。

彼女が手に入れたのは、「安心な結果」だけではありません。
何より、「怖くても逃げずに、自分の人生の舵を握った」という、自分への深い信頼感でした。

実体のない恐怖が消え、心が「今ここ」に落ち着く時

向き合う前は、あんなに大きく、恐ろしく見えていた不安。でも、一度扉を開けてしまえば、そこには「これからどうすればいいか」という、地に足のついた現実があるだけでした。

実体のない恐怖に怯える時間は終わり、彼女の心には凪(なぎ)のような、本当の意味での静寂が訪れました。 勇気を出して電気をつけたその部屋は、思っていたよりもずっと、穏やかで優しい場所だったのです。

まとめ:不安を抱えたまま、一歩踏み出すあなたへ

不安が完全に消えてから動こうとしなくていいのです。不安を抱えたまま、その震える足でいいから、一歩だけ進んでみる。

その一歩は、「自分を二度と放置しない」という、あなたからあなたへの最高の贈り物になります。

もし、今あなたが何かを先延ばしにしているなら、こう問いかけてみてください。
「その問題を解決した後の自分は、どんなに軽やかな気分で笑っているだろう?」と。

その扉を開けた先にしか、本当の静寂は待っていません。
一人で開けるのが怖いときは、いつでもここへお話しに来てくださいね。一緒に、その一歩の踏み出し方を考えていきましょう。

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