摂食障害・トラウマからの回復に役立つ「センタリング」|心と体を安定させる方法

摂食障害やトラウマからの回復の過程では、感情や衝動が急に高まることがあります。

例えば、夜中に過食の衝動が突然強くなる、過去のつらい出来事を思い出して心が揺れたり、緊張で体が固まって動けなくなる、あるいは不安で頭がいっぱいになり、どう行動していいかわからなくなることはありませんか?

こうしたとき、心と体を「今ここ」に戻す手段として知られるのがグラウンディングです。これは、感情や衝動、トラウマ反応に飲み込まれそうなときに、自分を落ち着かせるための土台を作る方法です。

ですが、グラウンディングだけでは不安や衝動のピークを十分にやり過ごせないこともあります。そこで役立つのが、センタリングです。センタリングは「心と体の中心を整える」練習で、グラウンディングよりもさらに内側の安定感を得ることを目的としています。

この記事では、センタリングの意味や効果、具体的な実践方法、そして丹田(たんでん)に意識を向ける重要性まで、詳しく紹介します。

この記事を書いた人

上畠 真紀
公認心理師、精神保健福祉士

経験
18年以上のカウンセリング経験(精神科・心療内科)
専門分野
摂食障害、気分障害、トラウマ、対人関係

目次

センタリングとは?— 内なる中心「丹田」を意識する

センタリングとは、心と体の軸(中心)に意識を向け、内側の安定感を取り戻すことです。

  • 感情や体の揺れに巻き込まれず、落ち着いた状態をつくることを目指します。
  • 衝動や不安が強まったときも、自分の中心に意識を戻すことで冷静さを取り戻せるようになります。

内なる中心「丹田(たんでん)」

東洋の考え方では、この心身の軸の中心は「丹田(たんでん)」と呼ばれます。丹田は、へそから指3〜4本分ほど下のお腹の奥にあるとされ、身体の重心であり、生命エネルギーの源と考えられています。

センタリングでは、この丹田に意識を集め、呼吸を送り込むことで、「土台(グラウンディング)」の上に「太い柱(センタリング)」を立てるような、揺るぎない安定感を得ることを目指します。

グラウンディングセンタリング
意識の対象地面や外側の身体感覚(足裏、手の感触など)内側の軸丹田(体の重心)
役割「今ここ」に戻るための土台作り内側の安定感を保つための柱を立てる作業

センタリングが役立つ場面と効果

グラウンディングと同様に、センタリングは「急な衝動や不安、トラウマ反応に向き合うための安全な土台」を作る役割を果たします。

特に効果的な場面

  • 過食や嘔吐の衝動、または自傷行為など衝動的に反応しそうになるとき。
  • 過覚醒や不安、緊張で体が固まり、体感覚が麻痺しそうになっているとき。
  • 考えがまとまらず、過去のつらい記憶や感情の渦に飲まれそうなとき(フラッシュバックや解離)。

センタリングの心理的・身体的効果

  1. 衝動やトラウマ反応のピークをやり過ごせる

丹田に意識を置くことで中心軸が安定し、衝動や感情の波に巻き込まれる前に、わずかでも“待つ”時間を持てるようになります。

  1. 感情を安全な距離から観察できる

内側の軸が整うことで、強い不安や怒りを「飲み込まれることなく客観的に」見られるようになります。丹田に意識を置くと、感情が胸や頭で暴走することを防ぎやすくなります。

  1. 身体感覚の回復を促す

お腹(丹田)に意識を向けて呼吸することで、感覚が鈍化しがちな体にもう一度意識を向け直し、安心感を伴いながら「自分の体を感じる感覚」を取り戻す助けになります。

  1. 行動の選択肢を持てるようになる

中心が安定することで、次の行動を選ぶ余裕が生まれます。「反射的な行動と自分を切り分けられる」ようになり、回復の力が育ちます。

【回復への視点】衝動の背景にあるもの

摂食障害の症状(過食、嘔吐、制限)や、トラウマ反応(衝動的な行動、過覚醒、解離)は、実は「感じたくない感情や身体の不快感から逃れる手段」として無意識に働いていることがあります。
強い感情や衝動が高まると、脳は本能的に「逃げろ・守れ」のモードに入り、理性的な判断よりも感情や身体感覚に引っ張られやすくなります。
センタリングは、この本能的な反応の状態を少し和らげ、自分の中心と理性を取り戻すための練習です。

実践方法:センタリングの例

丹田への意識を基本として、グラウンディングと組み合わせて実践してみましょう。

1. 呼吸と丹田を意識するタイプ(センタリングの基本)

  1. 椅子に座るか立った姿勢で、両足を床につけ、足裏で床の感触を感じます(グラウンディング)。
  2. 背骨をまっすぐに伸ばし、軸を感じた上で、内側の中心である「丹田」(へそ下のお腹の奥)に意識を集中します。
  3. ゆっくり息を吸い、吐くときに丹田のあたりが少しへこむのを感じながら、体の重みや安定感をその中心に集めるように意識します。
  4. 数回繰り返すだけでも、心が落ち着きやすくなります。

2. 日常で簡単にできる方法(混合型)

  • 歩くとき:足裏で床を踏みしめる感覚に注意を向けながら(グラウンディング)、姿勢の軸、特に丹田が安定していることを意識して歩きます。
  • デスクワーク中:肩や胸の緊張を感じたとき、呼吸を丹田に下ろす意識で数回整えます。
  • 電車やバスでの移動中:座っている場合は坐骨の重みを、立っている場合は足裏の重みを意識しながら、背骨の軸を軽く伸ばし、丹田を安定させるように呼吸します。

3. 応用ワーク:感情を感じながら軸を整える

不安や焦りを感じながらも、丹田に軽く意識を置いて呼吸を続けます。
感情を消そうと頑張りすぎず、「不安なままでも、今ここにいられる」という感覚を育てることが重要です。

日常に取り入れるコツと注意点

グラウンディングやセンタリングは、症状を消すための「テクニック」ではなく、自分を安心させるための練習です。

日常化のコツ

  • 丹田に触れる:手のひらを丹田のあたりに軽く当てて呼吸すると、意識を集中しやすくなります。
  • 短時間でOK:1回1分から、短時間でも意識を向ける練習を重ねましょう。
  • 衝動が小さいうちに練習する:穏やかな時間に習慣化しておくことが、衝動が強まった時に効力を発揮します。

注意点

  • 完璧を目指さない:丹田の感覚は最初つかみにくいのが自然です。
  • 「無理に落ち着こう」と頑張りすぎない:「落ち着かなきゃ」と思うほど体が緊張することがあります。ただ「今はまだ落ち着けないな」と気づくだけでも十分です。
  • 強い感情や記憶が出た時は中断する:グラウンディングやセンタリングの最中に、過去の記憶や強い身体反応が浮かんだときは、無理に続けようとせず、信頼できる人や専門家にサポートを求めてください。

最後に

センタリングは、グラウンディングで得た土台の上に丹田という揺るぎない柱を立て、心と体の安定を助ける練習です。一度に完璧を目指さず、少しずつ日常の中で積み重ねることが、摂食障害やトラウマからの回復の大きな支えになります。

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