人間関係の悩み、実は「トラウマ」が原因かも?

「どうして、また同じようなことで人間関係がこじれてしまうのだろう?」

「人と関わるのが、なんだか怖い…」

そんなふうに感じたことはありませんか?

一見、性格の問題や相性のせいに思える人間関係のつまずき。その背景にまだ癒されていないトラウマが隠れていることがあります。

過去の経験が今の人との関わり方に影響を与えていることに気づけたとき、自分を責める気持ちがやわらぎ、少しずつ人との関係も変えていけるのです。

この記事では、「人間関係の悩み」と「トラウマ」の関係について、回復に向けたステップとともにご紹介します。

この記事を書いた人

上畠 真紀
公認心理師、精神保健福祉士

経験
18年以上のカウンセリング経験(精神科・心療内科)
専門分野
摂食障害、気分障害、トラウマ、対人関係

目次

トラウマとは何か?人間関係に与える影響

トラウマの定義と種類(単回性トラウマ・複雑性トラウマ)

「トラウマ」とは、心が大きな衝撃やストレスを受けたときに生じる心の傷のことを指します。強い恐怖や無力感、恥や悲しみなどに圧倒され、それを十分に消化できないまま記憶や感情として心に残ると、日常生活や人間関係にまで影響が及ぶことがあります。

トラウマは大きく「単回性トラウマ」と「複雑性トラウマ(複雑性PTSD)」の2つに分類されます。

単回性トラウマ

単回性トラウマとは、一度きりの強い出来事によって引き起こされる心の傷を指します。例えば、事故や災害、暴力的な事件など、突然の衝撃的な体験などです。

複雑性トラウマ(複雑性PTSD)

複雑性トラウマは、長期間にわたって繰り返されるストレスや苦痛な体験によって生じる心の傷です。例えば、家庭内での言葉の暴力や無視、養育者からの過度な支配や不安定な関わり、いじめなど、子どもの立場で逃げ場のない状況が続いたときに、心の深い部分に影響を与えます。

このようなトラウマは、その後の人間関係や感情のコントロール、自分自身への感じ方などにまで広く影響を及ぼします。

発達性トラウマや愛着の傷つきとの関連

幼少期の重要な養育者との間で作られる「愛着」は、その後の人間関係のひな型になると言われます。しかし、重要な養育者との関係において安心感や信頼感が十分に育まれなかった場合に心の傷となることがあります。この心の傷を「愛着トラウマ」と呼ぶことがあります。

愛着トラウマは、複雑性PTSDや発達性トラウマ(発達段階における慢性的なストレス体験)とも密接に関連しており、慢性的な情緒的問題の背景にあることも少なくありません。

愛着トラウマを抱えて育った人は、以下のような特徴が見られることがあります。

  • 人間関係の困難
     信頼関係を築くことが難しく、近づきすぎたり、逆に極端に距離を取ったりといった不安定な関係を繰り返しやすくなります。
  • 感情コントロールの苦手さ
     自分の感情を適切に認識し、表現することが難しく、突然の爆発や引きこもりなど、アンバランスな反応になりがちです。
  • 不安定な自己概念
     自己否定感が強く、「自分には価値がない」「どうせ愛されない」といった根深い信念を抱えやすくなります。

こうした特徴のため、その後の人生において傷つき体験を乗り越えることが難しくなり、トラウマを抱えやすくなってしまうと考えられます。

人間関係に現れるトラウマのサインとは

トラウマは、私たちの心に深く根ざし、人間関係において様々なサインとして現れます。

ここでは、人間関係の中であらわれやすいトラウマのサインをいくつかの傾向に分けてご紹介します。

人と関わるのが怖い、難しいと感じる

人間関係で傷ついた経験から、再び傷つくことを恐れて、他者と距離を置いたり、親密な関係を避けたりしてしまうことがあります。人間関係そのものに恐怖や抵抗を感じる場合もあります。

  • 人との関わりを避ける・孤立しがちになる

些細なことでも傷つきやすく、過剰に反応してしまうため、人と関わることそのものが怖く感じられることがあります。

  • 関係が深まると急に離れてしまう・関係を破壊してしまう

 親密になることへの不安や恐れから、良好な関係が築かれそうになると、自ら関係を終わらせてしまうことがあります。

人を信じることが難しい

過去の傷ついた経験から、他者を信頼することが難しくなってしまうことがあります。人を信じたい気持ちがあっても、無意識のうちに警戒してしまい、心を開くことが難しくなることも。

  • 常に警戒心がある・人を信用できない

人から傷つけられることを防ぐために、心を開けずに距離をとったり、つい疑いながら関わったりしてしまうことがあります。

  •  怒りや不満が溜まりやすい・爆発しやすい

過去に抑えてきた感情が、今のちょっとした出来事をきっかけに一気にあふれ出してしまうことがあります。

人に合わせすぎてしまう・自分を出せない

自己肯定感の低さや、他者に嫌われることへの不安から、自分の気持ちや意見を抑えて、相手に過剰に合わせてしまうことがあります。

  • 過度に相手に合わせようとする・自己主張ができない

「嫌われたかも」と不安になりやすく、そのため、自分の意見や感情を抑えて、意向を優先してしまう傾向が強くなりがちです。

  • 人に利用されやすい

嫌われることや拒絶を恐れるあまり不当な要求にも「NO」が言えず、搾取されるような関係に巻き込まれてしまうこともあります。

  • 人に頼ることができない・助けを求められない

「弱みを見せたら嫌われるかも」「迷惑かけたくない」という思いから、困難な状況でも一人で抱え込んでしまうことがあります。

人との関係で振り回したり、振り回されたりしてしまう

 人との関係が、自分の感情や「自分らしさ」に大きく影響しやすい場合があります。不安や心細さから、相手に依存したり、逆にコントロールしたりしようとすることも。

  • 特定の人との関係に依存する・共依存関係になりやすい

自分自身の価値や存在意義を他者との関係に見出し、その関係がないと不安になってしまうことがあります。

  • コントロール欲求が強い・相手を支配しようとする

不安や恐怖から、自分の思い通りに相手を動かそうとしてしまうことがあります。

  • 過去の人間関係のパターンを繰り返してしまう

幼少期の親子関係など、過去に経験した傷つく人間関係のパターンを、無意識のうちに現在の人間関係で再現してしまうことがあります。

トラウマによって形成される「人間関係のパターン」

「これ以上傷つかないように」と心が精一杯守ってきた結果として、特定の人間関係のパターンを無意識のうちに繰り返していることがあります。ここでは、よく見られる5つの人間関係パターンをご紹介します。どれも、あなたの心が生きのびるために選んだ形かもしれません。

共依存的な関係

「愛されるには役に立たなければならない」「自分だけでは価値がない」といった思いが、無意識に影響することで、次のような関係パターンに陥ることがあります。

  • 問題や困難を抱えるパートナーばかりを選び、彼らを献身的に支えようとします。
  • 見捨てられることへの恐怖から、相手がどんなに自分を傷つけても、その関係にしがみついてしまいます。
  • 反対に、常に誰かに助けを求め、依存的な関係を繰り返すこともあります。

支配と服従

過去のトラウマ体験によって、力のバランスをめぐる関係に敏感になり、「支配する側」または「服従する側」のどちらかに極端に傾くことがあります。どちらも、再び傷つくことを避けようとする心の働きによるものです。

  • 支配する側: 過去に抑圧された経験から、今度は自分が相手をコントロールしようとします。パートナーや友人の行動を過剰に監視したり、自分の意見を押し付けたりすることがあります。相手を監視・指示・誘導するなどです。
  • 服従する側: 権威や支配的な相手に逆らえず、常に相手の顔色を伺い、自己犠牲的な関係を続けてしまいます。

親密さを求めながらも突き放す

「人とつながりたい」という思いと、「近づきすぎるのが怖い」という感情が同時に存在しているため、関係が深まるほど、無意識に距離を取ってしまうことがあります。

最初は積極的に親密な関係を築こうとしますが、関係が深まるにつれて、「見透かされる」「期待に応えられない」「傷つくかもしれない」という不安が強まり突然相手を突き放したり、感情的に距離を置いたりします。
本人もなぜ急に冷たくしてしまうのか自分でわからず、罪悪感や孤独感に悩まされることがあります。

見捨てられを防ぐための自己防衛パターン

「どうせ見捨てられる」「裏切られるに決まっている」といった強い不信感がベースにあるため、傷つく前に自分から関係を壊してしまう傾向があります。
例えば、以下のようなパターンで自分を守ろうとすることがあります。

  • 相手のささいな言動を過剰に読み取り、「やっぱり自分は大切にされない」と感じてしまいます。
  • 見捨てられるのではという不安を解消するために、相手を試すような発言や行動をとることがあります。
  • 親密になった途端、自分から関係を終わらせたり、相手が離れていくような状況を無意識に作り出したりします。

表面的な関係:感情とのつながりを断つことで自分を守るパターン

過去のつらい経験から、感情を感じないことで心を守ってきた結果、自分の気持ちにも他人の気持ちにも鈍くなってしまうことがあります。そのため、他者との深いつながりを築くのが難しく、表面的な関係にとどまりがちになります。
例えば、以下のようなパターンで自分を守ろうとすることがあります。

  • パートナーや友人、家族が感情的な苦痛を訴えても、まるで他人事のように感じ、適切な共感を示せないことがあります。
  • 自分自身の感情も感じにくいため、他者との情緒的な繋がりを築くのが困難になります。これにより、表面的な関係しか築けず、深い関係に発展しにくい傾向があります。

トラウマを克服し、人間関係を改善するためにできること

まず「トラウマ」を認識する

人間関係がうまくいかないとき、「私に悪いところがあったのではないか」と自分を責めてしまうことがあります。
逆に、相手から責められているように感じるあまり、つい相手を攻撃してしまうこともあるかもしれません。

自分を責めても、相手を責めても、関係がこじれてしまったという経験をお持ちの方は少なくないのではないでしょうか。

実は、こうしたうまくいかない関わり方の背景には、過去のトラウマが影響していることがあります。
心は同じような傷つきを避けようとして、無意識に反応してしまうのです。

いつも同じような人間関係で悩みを抱えてしまう時に、その背景に過去のトラウマが影響しているかもしれないという視点で向き合うことが、人間関係を変えていくための出発点になります。

安心できる人間関係を少しずつ築く

人間関係で傷ついた経験があると、誰かと親しくなること自体がこわく感じられることがあります。

「また傷つくかもしれない」「どうせわかってもらえない」

そんな思いが心のどこかに残っているのは、とても自然なことです。

だからこそ、少しずつ、安心できる関係を築いていくことが大切です。

人間関係を良くしようと無理に頑張るよりも、まずは相手の話にじっくり耳を傾けてみる。もしその中に少しでも興味を持てる話があれば、それだけで気持ちがふっと緩むこともあるかもしれません。

そして、「自分のことを少し話してみようかな」と思えたときに、少しずつ言葉にしていく。
それを否定せずに受けとめてくれる相手とのやりとりが、安心できる感覚を少しずつ取り戻す手助けになります。

そのひとつひとつの小さな経験が、トラウマによってゆがめられた人との関わり方の感覚を、ゆっくりと癒してくれるのです。

無理な関係からは距離を取る勇気をもつ

トラウマがあると、「相手がどう思うか」「嫌われないか」が最優先になってしまうことがあります。

自分の気持ちは後回しにしてでも、関係を壊さないように頑張ってしまう。そんな経験をされた方も多いかもしれません。

本当は、自分の気持ちを大切にし、嫌なことには「NO」と言ってもいいのです。

無理をして付き合い続ける関係は、かえって自分を大切にすることから遠ざかってしまい、逆にあなたをすり減らしてしまいます。

「この関係はつらいな」と感じたら、距離をとることも大切な自己防衛のひとつです。

最初は勇気がいるかもしれません。

それでも、小さな「自分を大切にする」行動を積み重ねていくことで、少しずつ人との関係も変わっていきます。

自分の心の声に耳を傾けることが、よりよい関係を築く第一歩になります。

専門家のサポート(カウンセリング)の活用方法

つらさや不安を一人で抱えるのが苦しいときは、カウンセリングや心理療法などの専門的なサポートを受けることも、回復の大切な手がかりになります。

トラウマは、気づかないうちに人間関係や日常の感じ方に深く影響していることがあります。

「なぜこんなに苦しくなるのだろう」「どうして人とうまく関われないのだろう」

そんな気持ちに一人で向き合おうとすると、自分を責めてしまい、ますます混乱してしまうこともあるかもしれません。

そんなとき、安心できる関係の中で気持ちを言葉にすることは、心の整理につながります。

専門家との対話の中で、「自分はこんなふうに感じていたんだ」と気づいたり、「これでよかったんだ」と少しほっとできたりすることもあります。

そのときに重要なことは、初めからトラウマについて詳しく思い出したり、言葉にすることではないということです。そのプロセスは、安心や安全な感覚を自分や周囲に対して感じられるようになってからになります。

人と関わることが怖い、信じることが難しい…

そんな思いを抱えている方にとっては、助けを求めること自体に不安を感じるかもしれません。でも、その気持ちごと相談しても大丈夫です。

「こんなことで相談していいのかな」と感じる方もいらっしゃいます。けれど、助けを求めることは決して弱さではなく、自分を大切にする選択です。

あなたが今つらいと感じていて、「ここから変わっていきたい」と思う気持ちがあるのなら、専門的な力を借りることは、確かな一歩となるでしょう。

実際に人間関係のトラウマを乗り越えた事例

ここでは、過去の経験から人との関係に悩みながらも、カウンセリングを通して少しずつ回復していった方の事例をご紹介します。

ある女性は、幼い頃から人の中にいることに漠然とした怖さを感じていました。
保育園では仲間外れや強い言葉を向けられる経験が重なり、「私が悪いのかもしれない」と思うようになっていったといいます。
大人に助けを求めても取り合ってもらえず、「困っても、誰も守ってくれない」という感覚が心に残りました。

家庭でも感情を表すことが難しく、「言うことを聞いていれば、自分のことを見てもらえるかも」と期待しても、それが叶うことはありませんでした。
次第に、「どうせわかってもらえない」とあきらめ、人との距離をとることが当たり前になっていきました。

大人になってからも、相手の何気ない言葉に不安を感じたり、関係が深まりそうになると自分から距離を取ってしまったり。
その不安を紛らわすために、過食や自傷といった行動に頼ってしまうこともあったそうです。

カウンセリングで始まった「回復のプロセス」

カウンセリングでは、すぐにトラウマに触れるのではなく、まずは

  • 「安心できる時間や空間」
  • 「他者の中に頼れる部分」
  • 「心がふっとゆるむ瞬間」
  • 「他者の中に少しでも頼れる部分」
  • 「今この瞬間に意識を向けられる感覚」
  • 「自分の感覚や気持ちを否定されない関係」

などを一緒に見つけていくことから始めました。

自分を落ち着かせる行動や、関わっていて心地よい人との関係などを意識的に増やしていく中で、「ここでは大丈夫かもしれない」と感じられる場面が少しずつ増えていきました。

並行して、過食や自傷で対処している感情との向き合い方を身に付けました。

その土台ができてから、トラウマとなった出来事を少しずつ振り返り、「本当はわかってほしかった」「大切にされたかった」という気持ちを言葉にすることができるようになりました。

そして現在では、対人関係の中で自分の感情や期待を適切に伝えられるようになり、安定した人間関係を築けるようになっています。


過去の出来事や傷つきに向き合うことは簡単ではありませんが、まず「自分の内側に安心をつくること」が、変化の大きな一歩になったのです。

まとめ:トラウマに気づいたときから、人間関係は変わりはじめる

人間関係で悩むと、「自分が悪いのでは」と責めてしまいがちです。

けれど、その背景には、これまでの経験や心のクセ、気づかないうちに身につけた反応のパターンが影響していることもあります。

「どうして人とうまくいかないんだろう」と思ったときこそ、心の奥にある傷の可能性に優しく気づいてあげるタイミングです。そしてその気づきをもとに少しずつ安心できる関係を築いていくことで、人間関係に変化を起こすことができます。

あなたが今より少しでも生きやすくなるためにどんなことができそうか、一緒に探していきましょう。

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