摂食障害/トラウマ回復が進まない本当の理由|安全感を育てる実践ガイド

摂食障害やトラウマからの回復を志す方には、とても勉強熱心な方が多い印象があります。
「過食は感情の蓋である」「トラウマの反応は脳の防御本能だ」「自己肯定感を高めることが大切だ」
こうした知識をすでに持ち、カウンセリングや本を通じて「何をすべきか」を十分に理解している方も少なくないと思います。

それなのに、なぜ、いざという時に過食が止まらないのでしょうか。
なぜ、過去の記憶に引き戻され、動悸や不安に襲われてしまうのでしょうか。

「自分は意志が弱いのではないか」「回復する才能がないのではないか」と自分を責めてしまうかもしれません。だけど、答えはもっとシンプルなのです。

あなたの心と体の「OS(基本ソフト)」にあたる「安全感」という土台が十分に育っていないからです。

安全感は、思考で「理解」するものではなく、身体で「感じる」ものです。
この土台がグラグラな状態で、その上に「正しい行動」や「前向きな考え方」という家を建てようとしても、少しの風で倒れてしまうのは当然のことなのです。

この記事では、回復を阻む根本的な原因である「安全感の欠如」をどう乗り越え、身体から安定を築いていくかを詳しく解説します。

この記事を書いた人

上畠 真紀
公認心理師、精神保健福祉士

経験
18年以上のカウンセリング経験(精神科・心療内科)
専門分野
摂食障害、気分障害、トラウマ、対人関係

目次

回復を阻む「神経系のブレーキ」と「サバイバルモード」

私たちが何かに挑戦したり、自分を変えようとしたりする時、脳は「ここは安全な場所か?」を瞬時に判断しています。

脳は「正しさ」より「生存」を優先する

トラウマや摂食障害を抱えている時、私たちの自律神経は常に「サバイバルモード(警戒状態)」にあります。脳の深部にある扁桃体が、「世界は敵だらけだ」「いつ攻撃されるかわからない」という警報を鳴らし続けている状態です。

この状態にある時、人間は「新しいことを学ぶ」ことや「自分を愛する」という高度な機能を使うことができません。なぜなら、脳は生存を最優先し、エネルギーのすべてを「戦うか、逃げるか、固まるか」に注ぎ込んでしまうからです。

「頑張る」が逆効果になる理由

「今日こそは過食しないぞ!」「前向きに考えよう!」と強く意気込むことは、神経系にとってはさらなる「プレッシャー(脅威)」として伝わることがあります。頑張れば頑張るほど交感神経が昂ぶり、その昂ぶりを鎮めるために、脳は「過食」や「解離(感覚を麻痺させること)」という強力な鎮静剤を求めてしまうのです。

これが、あなたが知識を持っていても回復が進まない「本当の理由」です。あなたの努力不足ではなく、あなたの身体が一生懸命あなたを守ろうとして、ブレーキを踏んでいるのです。

「安全感」という名の、心の基礎体力

回復における「安全感」とは、単に「事件が起きていない」ということではありません。
それは、あなたの身体が「今、ここにいて大丈夫だ」と心底納得している状態を指します。

安全感が育つと、心はどう変わるか?

1.感情の解像度が上がる(感情を識別する力)

安全感がない状態では、すべての不快感は「巨大な不安」として一括りにされます。
しかし安全感の土台ができると、「これは悲しさだ」「これは誰かに言いたかった怒りだ」と、感情を細かく感じ分けられるようになります。

2.衝動の「波」に乗れるようになる(自己制御力)

過食衝動や自傷衝動は、巨大な波のようなものです。
安全感という足場がしっかりしていれば、波に飲み込まれるのではなく、「あ、今、大きな波が来ているな」と、少し離れたところから観察できるようになります。

3.感情の揺れを許容できる「耐性領域(心の幅)」が広がる

回復とは、苦しさがゼロになることではありません。
揺れながらも、その揺れを許容できる幅(耐性領域)を広げていくことです。
安全感が育つと、一時的な落ち込みを「リバウンド」ではなく「必要な調整プロセス」として捉えられるようになります。

身体から「安全感」を育てる3つのアプローチ

安全感が育つと、心はどう変わるのでしょうか?
── 一言で言うと、「感じても壊れない自分」が育ちます。
つらい感情が出てきても、飲み込まれずに、ちゃんと戻ってこられる感覚です。

安全感は、一朝一夕には育ちません。
筋トレと同じように、毎日の微細な「体感」の積み重ねが必要です。
それだけ、あなたの心と体は丁寧に扱われる必要がある、ということでもあります。
ここでは、緊急時のパニックを鎮めるための「技法」としてではなく、神経系の基礎体力を底上げするための「リハビリ」としてのアプローチを紹介します。

① 「不快ではない」を丁寧に捉えるリハビリ

脳に「今は危険じゃない」と小さく伝え続ける練習です。

回復を急ぐあまり、私たちはつい「ポジティブな快感」や「幸せな気分」を求めてしまいます。
しかし、長年サバイバルモードにいた身体にとって、急な快楽は刺激が強すぎ、無意識の拒絶反応を招くことがあります。

まずは、「今、不快ではない感覚」に意識を向け、それを言葉にしてみましょう。

  • 「背もたれに体重を預けている間は、腰が痛くないな」
  • 「このお湯に触れている間は、手が冷たくないな」
  • 「この部屋の温度は、暑くも寒くもないな」

この「ニュートラル(中立)」な状態を認識することは、脳に「今は攻撃を受けていない」という微細な安全信号を送り続ける作業になります。

マイクロ・グラウンディング(心の土壌づくり)

日常のなかで神経系の足場を静かに太くしていく作業です。

一般的に知られるグラウンディングが、パニックや衝動を止めるための「緊急ブレーキ」だとしたら、ここで提案するマイクロ・グラウンディングは、日常のなかで静かに心の土台を固める「土壌づくり」のようなものです。

意識を「外」に向けるのではなく、自分だけにしかわからない「極めて微細(マイクロ)な感覚」に数秒間だけ没入します。

・服の感触: 袖口が手首に触れている感覚、あるいは服の重みが肩に乗っている感覚をじっと感じてみる。

・重力の確認: お尻が椅子に触れている部分の「圧力」の変化だけを数秒間観察する。

・呼吸の温度: 鼻を通る空気が、吸う時と吐く時で「わずかに温度が違うこと」に気づいてみる。

こうした「気づくか気づかないか」程度の小さな感覚の再登録が、サバイバルモードで固まった脳を少しずつ解きほぐしていきます。

③ 「感じられない自分」を否定せず、観察する

感じられない状態そのものを、安全のサインとして扱うことです。

トラウマや摂食障害を抱える方のなかには、身体の感覚が麻痺している(アレキシサイミア:失感情症)状態の方も多くいらっしゃいます。マイクロ・グラウンディングを試しても「何も感じない」ということがあるかもしれません。

しかし、「何も感じない」と感じること自体、実は一つの重要な感覚です。
それは、あなたの心があなたを守るために「今は何も感じさせないようにしよう」と、強力なガードを張ってくれている証拠です。

「何も感じられない自分はダメだ」と責めるのではなく、「今は、心を守るシャッターが下りているんだね。それほどまでに頑張ってきたんだね」と、その状態をそのまま認めること。
それ自体が、あなたの中に「自分を否定されない」という新しい安全感を生み出します。

安全感こそが、回復への「最短ルート」

摂食障害やトラウマの回復は、山登りに例えられます。 知識という地図を持ち、正しいルートを理解していても、足元の地面(安全感)が崩れやすい泥沼であれば、一歩も進むことはできません。

もしあなたが今、「頑張っているのに進まない」と感じているなら、一度立ち止まって、足元の地面を固めることに専念してみてください。

「不快ではない感覚」を拾い、身体の声に耳を傾け、何も感じられない自分を許すこと。
一見、遠回りに見えるこの地道な作業こそが、結果としてあなたを最も確実に、そして二度と戻らない回復の道へと導いてくれます。

あなたの心身が「ここはもう安全だ」と納得した時、過食や症状という「武器」は、役目を終えて自然とあなたの手から離れていくはずです。

もしあなたが今、ここまでこの文章を読んでくれているとしたら、それ自体が、あなたがこれまで必死に回復を願い、考え、試行錯誤してきた証です。
うまくできなかった日があったとしても、立ち止まってしまったと感じることがあったとしても、あなたの心と体は、これまでずっと生き延びるために最善を尽くしてきました。
今はただ、その土台を、少しずつ整え直している最中なのです。

もし一人でこのプロセスを続けるのが苦しいと感じたときには、「安全感」を身体の感覚から、一緒に育てていくサポートという選択肢もあります。
あなたのペースを大切にしながら、今の状態に合った形で関わっていくことができます。

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