「また同じような恋愛をしてしまう…」「相手の気持ちが信じられない」「親密な関係が怖くて避けてしまう」
もしあなたがそう感じているなら、それはもしかしたら「愛着スタイル」が関係しているかもしれません。愛着スタイルとは、幼い頃の親との関わりを通して形成される、人との関わり方の傾向のことです。その影響は大人になってからの恋愛にも深く関わってきます。
しかし、自分自身の愛着スタイルを理解し、恋人との向き合い方を工夫することで安定した恋愛関係を築くことは可能です。
この記事では、愛着スタイルが恋愛にどのような影響を与えるのかを解説し、うまくいかない恋愛を克服するための具体的なヒントをご紹介します。

上畠 真紀
公認心理師、精神保健福祉士
経験
18年以上のカウンセリング経験(精神科・心療内科)
専門分野
摂食障害、気分障害、トラウマ、対人関係
愛着障害・愛着スタイルとは?
愛着障害という言葉でこのページにたどり着いた方も多くいらっしゃると思います。愛着障害とは厳密には愛着障害は子供に対しての診断名です。成人の対人関係に影響を及ぼす特性は愛着スタイルとして区別されます。まず、「愛着障害」「愛着スタイル」について説明します。
愛着障害 (Attachment Disorder)
愛着障害とは乳幼児期に、最も身近な養育者との間に安定した心の絆を築けなかったことが原因で、社会性や情緒面に深刻な問題が生じている状態のことを指します。これは、虐待やネグレクト、養育者の頻繁な交代、一貫性のない関わりなどが、子どもにとって大きな心の負担となり、その後の成長に深く影響を及ぼすことで起こります。
国際的な診断基準(ICD-10 やDSM-5)においても明確に定義されており、主に幼児期から児童期の早い時期に診断されることが多い障害で、大人になってから初めて診断されることは稀です。
ICD-10では以下の二つに区別され、治療的な介入が必要とされます。
・反応性愛着障害:他者への反応の著しく異常な様式を示し、それは恐怖や警戒、他者への親愛を求めることのなさ、または抵抗として現れる。
・脱抑制型愛着障害:特定の大人への選択的な愛着の欠如を特徴とし、過度の馴れ馴れしさ、無差別の親愛行動を示す。
愛着スタイル (Attachment Style)
私たちが養育者とのかかわりの中で身につける「人との距離感」や「心の繋がり方」の基本のパターンのことを「愛着スタイル」と呼びます。
愛着スタイルは、『安定型』と、3つの『不安定型』に分けられます。
不安定型の愛着スタイルといっても、それは必ずしも病的な状態を指すものではありません。実は、不安定型の愛着スタイルを持つ人の方が割合としては多く、不安定な愛着スタイルを持つ人も、日常生活を送る上で大きな困難を抱えない場合もあります。
また、愛着スタイルは乳幼児期の養育者とのかかわりで決定してしまうわけではなく、その後の人間関係や経験によっても変化すると考えらえています。
昨今、不安定型の愛着スタイルを持つ方が恋愛や対人関係において困難や悩みを持つことに注目が集まり、その状態を指して愛着障害という言葉が用いられることもあります。このブログでは、医学的な診断名としての愛着障害ではなく、成人で安定型以外の愛着スタイルを持つ方を対象として、その恋愛関係への影響について説明していきます。
4つの愛着スタイルと恋愛の特徴
それでは、具体的に4つの愛着スタイルと、それぞれの恋愛における特徴を見ていきましょう。
安定型
幼少期に養育者から安定した愛情を受けて育ち、「きっと相手は自分のことを大切にしてくれる」「困ったときは頼れる」と自然に思えるので、誰とでも穏やかで安定した関係を築けます。恋愛においても、相手との距離感を適切に保つことができるため、安定した関係を築きやすいタイプです。
回避型
親密になるのを避け、距離を置きがち
養育者から十分に愛情を受けられなかったり、拒絶的な態度を取られて育った場合に形成されやすいタイプです。恋愛においては、親密な関係を避けようとしたり、相手との間に壁を作ったりする傾向があります。「一人の時間が大切」「深く関わるのが面倒くさい」と感じやすく、相手に冷たい態度を取ってしまうこともあるかもしれません。親密な関係になることを避けてしまったり、相手が近づいてくると、無意識に距離を置こうとしてしまったりすることがあります。
不安型
「本当に愛されているのか?」と相手に依存する傾向
養育者の態度が一貫せず、愛情を感じられない時と過剰な干渉を受ける時があった場合に形成されやすいタイプです。恋愛においては、相手の愛情を常に確認しようとしたり、見捨てられることへの強い不安を感じたりするため、依存的になりやすい傾向があります。「もしかしたら嫌われているかも」「いつも私のことを見ていてほしい」といった感情に苦しむことが多く、相手の些細な言動に不安を感じたり、必要以上に連絡を取りたくなったり、相手を疑ったりしてしまいます。
恐れ・回避型(無秩序型)
愛されたいけど、傷つくのが怖くて関係を築けない
虐待やネグレクトなど、予測不可能な養育環境で育った場合に形成されやすいタイプです。親密な関係を求めながらも、同時に強い恐れを感じるという矛盾した感情を抱えています。「本当は誰かと繋がりたいけど、傷つけられるのが怖い」「どうせうまくいかない」と感じやすく、相手を求めながらも信じることができないため、感情が不安定になり、相手を振り回してしまうことがあります。恋愛関係を築くこと自体を諦めてしまうこともあるかもしれません。
愛着スタイルが恋愛に与える影響
愛着スタイルが、私たちの恋愛にどのような影を落とすのでしょうか?ここでは、愛着スタイルが不安定な場合に、恋愛において生じやすい二つの大きな影響について解説します。
① 恋愛がうまくいかない
親密な関係を築くことに困難を感じやすく、結果として恋愛が長続きしなかったり、深い関係に発展する前に終わってしまったりすることがあります。。相手を信頼することへの恐れや、見捨てられることへの強い不安が、積極的な関係構築を妨げてしまうのです。
また、自己肯定感の低さから、自分には愛情を受ける価値がないと感じてしまい、相手からの好意を素直に受け取れず、関係を壊してしまうような言動をとることもあります。
② 恋愛で陥りがちなパターンがある
愛着障害を持つ人は、恋愛において陥りがちなパターンがある場合が多いです。それは、それぞれの愛着スタイルによって、異なる形で現れます。
不安型
相手に過度に依存し、常に相手の気持ちを確かめようとしたり、些細なことで不安になったりするパターンを繰り返しやすいです。相手を束縛しようとしたり、嫉妬深くなったりすることで、結果的に相手を疲れさせてしまい、関係が悪化することがあります。
回避型
親密な関係を避けようとするため、相手との距離を一定以上に縮めようとしなかったり、感情的な繋がりを避けるような態度をとったりするパターンを繰り返しやすいです。相手が近づこうとすると、無意識のうちに突き放すような言動をとってしまい、相手に寂しさや不満を感じさせてしまうことがあります。
恐れ・回避型(無秩序型)
親密な関係を求めながらも、過去のトラウマなどから深く関わることを恐れるため、近づいたり離れたりを繰り返す不安定なパターンに陥りやすいです。予測不可能な行動をとることで、相手を混乱させ、安定した関係を築くことが困難になります。
愛着障害が恋愛に与える問題を克服する方法
では、私たちが抱える愛着にまつわる課題を乗り越え、より穏やかで満たされた恋愛を築くためには、具体的にどのようなことができるのでしょうか?ここでは、そのための4つの大切なステップをご紹介します。
① 自分の愛着スタイルを知る
自分の愛着スタイルを理解するためには、過去の親子関係を振り返ったり、恋愛における自分の行動や感情のパターンを分析したりすることが有効です。自分の愛着スタイルを知ることは、自分自身を客観的に見るための手がかりとなり、恋愛で繰り返してしまう問題に向き合うことに役立つでしょう。
② 感情をコントロールする方法を身につける
不安定な愛着スタイルを持つ場合、恋愛において強い感情の波に翻弄されやすいことがあります。不安、恐れ、嫉妬、怒りなどが過剰に湧き上がり、冷静な判断ができなくなってしまうことも。
感情をコントロールするためのスキルを身につけることは、安定した恋愛関係を築く上でとても重要です。以下のような方法を試してみましょう。
- 自分の感情に気づく練習: どんな時に、どんな感情が湧き上がってくるのかを意識的に観察しましょう。感情の名前をつけて認識することで、客観的に捉えやすくなります。
- 感情を受け止める: 湧き上がってきた感情を否定したり、無理に抑え込もうとしたりするのではなく、「今、自分はそう感じているんだ」と受け止めることが大切です。
- リラックスできる方法を見つける: 深呼吸、瞑想、アロマテラピー、音楽鑑賞など、自分がリラックスできる方法を見つけて、感情が高ぶった時に実践してみましょう。
- 思考のパターンに気づく: 不安や恐れを感じる時、どのような考えが頭に浮かんでいるのかを意識してみましょう。ネガティブな思考パターンに気づき、それを修正していくことで、感情も安定しやすくなります。
- アサーティブなコミュニケーション: 自分の気持ちや意見を、相手を尊重しながら適切に伝える練習をしましょう。我慢したり、攻撃的になったりするのではなく、率直なコミュニケーションを心がけることで、誤解やすれ違いを防ぐことができます。
感情のコントロールは、すぐにできるようになるものではありません。日々の練習を通じて、少しずつ身につけていきましょう。
③ 安定した関係を築く
不安定な愛着スタイルを持つ人が安定した関係を築くためには、お互いを尊重し、安心できる関係性を育むことが不可欠です。
- オープンなコミュニケーション: 自分の気持ちや不安を隠さずに、恋人に率直に伝えましょう。相手の気持ちにも耳を傾け、対話を重ねることで、信頼関係が深まります。
- 境界線を引く: お互いの自立性を尊重するために、適切な距離感を保つことが大切です。依存しすぎたり、干渉しすぎたりするのではなく、それぞれの時間や空間を尊重しましょう。
- 小さな約束を守る: 日常の小さな約束を守ることで、信頼感を積み重ねることができます。「おはよう」「おやすみ」の挨拶や、ちょっとした頼み事をきちんと守ることから始めましょう。
- 感謝の気持ちを伝える: 恋人の優しさや思いやりに対して、感謝の気持ちを言葉や態度で伝えましょう。感謝の気持ちは、ポジティブな関係を育むための大切な栄養となります。
- 共通の趣味や目標を持つ: 二人で一緒に楽しめることを見つけたり、将来について話し合ったりすることで、二人の絆はより一層深まります。
安定した関係を築くには、時間と2人の努力が必要です。焦らず、ゆっくりと2人のペースで関係を育んでいきましょう。
④専門に相談する
もし、自分自身の愛着の問題が深く根付いていると感じたり、自分や相手と向き合うことがうまくいかないと感じたりする場合は、一人で悩まずに専門家のサポートを求めることを検討しましょう。
カウンセラーは、あなたが今置かれている状況を整理したり、愛着スタイルをより深く理解すること、過去のトラウマと向き合い、健康的な恋愛関係を築くための方法を専門的な視点からサポートしてくれます。
専門家との対話を通じて、自分自身の気持ちに気づいたり、新たな視点を得たりすることができるでしょう。
恋人が愛着障害かもしれないときの接し方
もし、あなたの恋人が愛着障害を抱えているように感じるなら、どのように関われば2人の関係をより穏やかで安定したものにできるでしょうか?ここでは、相手の心に寄り添い、安心感を育むための3つの原則をご紹介します。
① 無理に変えようとしない
愛着スタイルは、自分がこれ以上傷つかないように身に着けた自分を守るための行動です。あなたにとっては理解できなかったり、戸惑うことがあるかもしれませんが、まずはそのことを理解し、責めたり非難したりしないことが大切です。
責めたり、相手の行動を無理に変えようとすることは、相手にとって理解してもらえないという気持ちを強めることになり、ますます拒絶や不安を強めてしまうかもしれません。
② 安心感を与えるコミュニケーションを意識する
相手の愛着スタイルやそれによる行動、感情を否定せずに受け止めることが大切です。
不安や悩みを理解しようと寄り添うコミュニケーションが安心感につながります。
具体的には「話を聞くときは遮らずに耳を傾ける」「相手の気持ちを言葉にして伝える」など)が挙げられます。
不安な気持ちや関係に距離を置く行動パターンは、そうした安心感の中で少しずつ手放していくことができるのです。
③ 相手に振り回されすぎないようにする
相手の気持ちや事情を理解し寄り添うことと、相手の言う通りにすることは違うことです。
相手に事情があるようにあなたにもあなたの事情やペースがあります。お互いの事情やペースを大切にすることが安定した関係を築くうえで大切です。
安定した関係とは、それぞれが自分で自分を支えつつ、そんな自分で相手と助け合うことができる関係なのです。
まとめ
恋愛関係は、友人関係といった他の対人関係と比べて、より親密な距離感となるため、愛着スタイルの影響がより強く現れやすいと言えます。不安定な愛着スタイルを持つと、相手やその関係性に対して不安を感じやすくなったり、傷つくことを恐れるあまり、親密な関係になることを避ける傾向が見られます。その結果、恋愛関係が長続きしなかったり、トラブルの多い関係を繰り返してしまうことも少なくありません。
しかし、愛着スタイルは乳幼児期だけで決まるものではなく、その後の人間関係や経験によって変化していくと考えられています。恋愛において、自身の愛着スタイルを理解し、自分自身と相手に向き合うことで、少しずつ安心できる関係を築いていくことは十分に可能です。
このブログを読んで、ご自身の恋愛関係に向き合ってみたいと思われたら、ぜひ一度カウンセリングをご検討ください。専門家との対話は、あなた自身の愛着スタイルを理解し、より健康的で満たされた関係を築くための第一歩となるでしょう。焦らず少しずつ恋人との安心できる関係を育んでいきましょう。
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