「どうしてあのとき、あんな選択をしてしまったんだろう」
ふとした瞬間に、そんな思いがよぎることはありませんか?
今がうまくいっているときには気にならなかった過去なのに、
何かがつらくなったとき、急に思い出してしまう。
「あのとき、ちゃんと考えていれば」
「あの選択さえしなければ、今は違ったはずなのに」
そんなふうに、過去の自分を責めてしまう。
そして気づくと、今感じているつらさまでも「自分のせい」にしてしまっている。
それは、過去を後悔しているからというよりも、
今の苦しさと過去の記憶が結びついている状態かもしれません。
これは、とても多くの方が経験する心の動きです。
もしかするとあなたはこれまで、過去の出来事について何度も振り返り、
「仕方なかった」と自分なりに納得しようとしてきたかもしれません。
それでも、今つらくなると、
また「あのときのせいで」と感じてしまう。
そんなふうに、前に進んだはずなのに、
また同じ場所に戻ってきてしまうような感覚を抱えていませんか?
でも、その苦しさは本当に「過去の選択」だけが原因なのでしょうか。
今日は、実際のカウンセリングでのやりとりをもとに、
「過去の自分を責めてしまう心理」と、その向き合い方についてお話しします。

上畠 真紀
公認心理師、精神保健福祉士
経験
18年以上のカウンセリング経験(精神科・心療内科)
専門分野
摂食障害、気分障害、トラウマ、対人関係
過去の自分を責めてしまうのはなぜ?
今の自分の基準で見てしまう
カウンセリングの中で、とてもよく出てくる言葉があります。
「今の自分なら、あんなことはしないのに」
この視点は一見もっともらしく感じますが、実はとても厳しい見方でもあります。
なぜなら、当時の自分は“今の自分”ではなかったからです。
経験も、知識も、余裕も、置かれていた状況も違う中で、
そのとき持っているものすべてを使って選んでいたはずです。
つまり、
「あのときの自分には、あれが精一杯の選択だった」
という見方もできるのです。
この視点に少し触れられたとき、
先ほどのクライアントの方は、こんなふうにおっしゃいました。
「責めてたのは、あのときの自分というより…
今の自分の基準で裁いていたのかもしれませんね」
なぜ納得したはずの過去を掘り返してしまうのか
「もう納得したと思っていたのに、また苦しくなる」
そんなふうに感じることもあると思います。
でもそれは、過去に戻ってしまったわけではありません。
今のつらさに、過去の感情が共鳴している状態です。
似たような状況や感覚に触れたとき、
心の中にしまっていたものが自然と動き出す。
それは、とても人間らしい反応です。
「また同じことで悩んでいる」
「自分は変われていない」
と責める気持ちが強く出てきてしまうかもしれないけれど…
それは、まだケアされていない部分が、
今ようやく表に出てきているだけかもしれないのです。
過去の自分を責めてしまうときに起きていること
あるクライアントの方が、こんなふうに話してくれました。
「今こんなに苦しいのは、あのときの選択のせいだと思うんです」
「ちゃんと向き合っていれば、違う未来になっていた気がして…」
その方は、とても誠実に自分と向き合ってきた方でした。
過去の出来事についても、何度も振り返り、
「仕方なかった」と頭では納得している状態でした。
それでも、今つらい出来事が起きると、
再び「あのときのせいで」という思いが浮かんでくる。
そして、その思いが出てくるたびに、また自分を責めてしまう。
「もう納得したはずなのに、どうしてまた…」
そんなふうに、二重に苦しくなってしまうのです。
ここで起きているのは、単なる“後悔”ではありません。
今のつらさと、過去の記憶が結びつき、「自分を責める形」で現れている状態です。
過去の自分を責めてしまう心理
では、なぜ人は過去の自分を責めてしまうのでしょうか。
そこには、いくつかの自然な心の働きがあります。
今のつらさに「意味」をつけようとしている
人は、強い苦しさを感じたとき、
そのままでは抱えきれず、「理由」を探そうとします。
「これは偶然ではなく、何か原因があるはずだ」
「きっと過去の自分の選択が悪かったんだ」
そうやって因果関係を作ることで、
目の前の苦しさに“意味”を与えようとするのです。
これは一見すると自分を責める考え方ですが、
実は「わけのわからない苦しさ」をそのまま感じ続けることから、
自分を守る働きでもあります。
コントロール感を取り戻そうとしている
「過去のせいだ」と思うことは苦しいですが、
同時にある安心感も含んでいます。
それは、「自分の選択で未来は変えられたはずだ」という感覚です。
もしすべてが偶然で、どうにもならなかったのだとしたら、
私たちは強い無力感にさらされてしまいます。
だからこそ、「過去の自分のせい」と思うことで、
“自分にはコントロールできる力があったはずだ”
という感覚を保とうとするのです。
未完了の感情が残っている
そしてもうひとつ、とても大切な視点があります。
それは、問題は出来事そのものではなく、そのときの感情であることが多い、ということです。
たとえば、
・本当はとても悲しかった
・悔しかった
・心細かった
・怖かった
そんな気持ちが、十分に感じきられないまま残っていると、
今の出来事に触れたときに、再び浮かび上がってきます。
そのとき私たちは、
その感情を感じる代わりに、
「あのときのせいで」
という形で、過去を責める方向に意識を向けてしまうことがあります。
こうした感情は、「感じてはいけないもの」として無意識に押し込められてきたことも少なくありません。
過去を責める苦しさから少し離れるために
では、この苦しさからどうすれば少し距離をとれるのでしょうか。
ここでは、日常の中で試せる視点をいくつかご紹介します。
「なぜ」ではなく「何がつらいか」に目を向ける
「なぜこうなったのか?」と考えると、意識は過去に向かいます。
その代わりに、
「今、何がこんなに苦しいんだろう?」
と問いかけてみると、今の自分の感情に戻ってくることができます。
原因ではなく、体験そのものに寄り添う感覚です。
「なぜ」と考え続けてしまうときは、
視点を変えることで楽になることもあります。
こちらの記事も参考にしてください。

「それはそれ、これはこれ」と分ける
過去の出来事と今の出来事を、
必ずしも一本の線でつなげる必要はありません。
「あのときはあのとき」
「今は今」
と少し距離をとってみることで、
今ここでできることに目を向けやすくなります。
過去の自分を敵にしない
過去の自分を責め続けることは、
自分の中に敵をつくることでもあります。
でも、あのときの自分もまた、
何かを守ろうとしていた存在です。
未熟だったのではなく、
限られた中で最善を尽くしていたのかもしれません。
そう思えたとき、
過去との関係が少しやわらかくなっていきます。
まとめ|過去の自分と同じ側に立つ
過去の自分を責めてしまうとき、
私たちは「正解」を探そうとしているのかもしれません。
でも本当に必要なのは、
正しかったかどうかではなく、
「あのときの自分なりに精一杯だった」と納得していくことです。
そしてもうひとつ大切なのは、
今感じているつらさは、
ただそれだけで、無条件にケアされていいものだということです。
理由がなくても、過去と結びつかなくても、
「つらい」と感じている事実だけで十分なのです。
あのときの自分と戦うのではなく、同じ側に立ってみる。
そんなふうに自分との関係が少し変わったとき、
今この瞬間が、ほんの少しだけ楽になるかもしれません。
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