「気づいたら、一日中、子どものことばかり考えているんです。」
そう話し始めたお母さんは、少し疲れた声でそう言いました。
「体重を記録して、次の受診日を調べて、今日は何を食べたか確認して……。気づいたら、自分の時間なんて一つもなくなっていました。仕事中もずっと気になって、何も手につかないんです。」
「何とかしなければ」という思いで、できることを一つずつ増やしてきた。けれど気づけば、ご自身の生活が、ほとんど本人の症状を中心に回るようになっていた。
こうした形で、ご家族自身の生活が少しずつ本人の症状に占められていくことがあります。
一方で、少し違う形で、ご自身の生活が本人中心になっていくこともあります。
「娘がこうしてほしいと言うので、そうしているんです。」
そうおっしゃる方に、「では、あなた自身はどうしたいと思っていますか」とお尋ねすると、少し戸惑ったような沈黙が返ってくることがあります。本人の希望に応じ続けているうちに、自分がどうしたいのか、何が苦しいのかを考える余地すらなくなっていた、ということに、そこで初めて気づかれる方もいらっしゃいます。
進んで踏み込んでいく形であれ、言われるままに応じ続ける形であれ、どちらも「気づけば、自分の生活が本人の病気を中心に回っていた」という状態にたどり着くことがあります。
こうしたお話をすると、「うちはそこまで深刻ではないので」と思う方もいるかもしれません。けれど実際には、「最近どう接したらいいのか分からなくなってきた」というくらいの段階で相談に来られる方も少なくありません。
摂食障害を抱えるご本人を身近で見ていると、
「どう声をかけたらいいのだろう」
「食事について、どこまで言っていいのだろう」
「病院に行きたがらないけれど、どうしたらいいのだろう」
と、分からないことが次々に出てくることがあります。
本人に聞いても、「大丈夫」「放っておいて」と言われる。けれど、家族から見ると、とても大丈夫とは思えない。
何か言えば怒られるかもしれない。でも、何も言わずにいて悪化したらどうしよう。
そんな状況が続くと、ご家族だけではどうしたらよいのか分からなくなってしまうことがあります。
そのようなとき、ご家族だけで専門家に相談する「家族相談」や「家族カウンセリング」という方法があります。
もちろん、具体的な状況を整理しながら、ご本人への関わり方を一緒に考えることも、家族カウンセリングでできることの一つです。
ただ、家族カウンセリングで考えていくのは、「本人にどう対応すればいいか」だけではありません。
ご本人への関わりについて一緒に考えていく中で、ご家族自身の困りごとや気持ちについてお話しすることもできます。
ご本人への関わりだけでなく、ご家族自身が困っていることについても相談できる。それも、家族カウンセリングの大切な役割の一つだと私は考えています。

上畠 真紀
公認心理師、精神保健福祉士
経験
18年以上のカウンセリング経験(精神科・心療内科)
専門分野
摂食障害、気分障害、トラウマ、対人関係
「正しい関わり方」を知りたくなるとき

摂食障害のご本人との生活では、判断に迷う場面がたくさんあります。
食べていないように見えるとき、声をかけた方がいいのか。
本人が「大丈夫」と言っているとき、その言葉を信じて見守っていていいのか。
食事や体重について、どこまで触れていいのか。
受診を嫌がっているとき、本人の意思を尊重して待っていていいのか。
こうした状況が続けば、
「こういうときは、どうしたらいいですか?」
「これは言わない方がいいですか?」
「どこまで見守ればいいですか?」
と、専門家に「どうしたらいいのか」を尋ねたくなることもあると思います。
拒食症の家族支援に、どんな場面でも通用する一つの「正しい接し方」があるわけではないことは、「拒食症の家族はどう関わればいい?」でも書いてきました。家族カウンセリングも、既製の正解をお渡しする場ではなく、今のご家族の状況に合わせて、一緒に考えていく場所です。
本人がカウンセリングを受けていなくても、家族だけで相談できます

「本人が相談したがらないのですが、家族だけでも相談できますか」というお問い合わせをいただくことがあります。
「本人が乗り気ではないので、うちはまだ相談できない」と思われる方もいらっしゃいます。
家族相談は、ご本人がカウンセリングを希望していない段階から始めることもできます。
むしろ、ご本人が相談を望んでいない段階だからこそ、まずご家族だけで話を整理しておくことが助けになることもあります。
本人が受診やカウンセリングを望んでいないと、「本人が動いてくれない以上、何もできない」と感じることがあるかもしれません。けれど、ご家族自身が困っていることについて、相談することはできます。
今、家族として何ができるのか。
どこから先は家族だけで抱えない方がよいのか。
本人との関係をどう考えていくのか。
そして、ご家族自身がこの状況の中でどう過ごしていくのか。
そうしたことを一緒に考えていきます。
なお、身体的な危険が考えられる場合などには、カウンセリングだけではなく医療機関への相談が必要なこともあります。その場合も、必要な支援につなぐことを含めて一緒に考えていきます。
家族カウンセリングでは、実際に何をするのか

初めて相談される方の中には、「何を話せばいいのか分からない」と感じている方もいらっしゃいます。
最初は、今何が起きているのか、何に困っているのか、どんなことが心配なのか。そうしたご本人の状況について伺うところから始めていきます。
実際に相談にいらしたあるお母さんは、「もっと食べたほうがいい」と伝えるたびに娘さんとけんかになり、次第に何も言えなくなっていったと話してくださいました。
娘さんの様子は心配だけれど、声をかければ関係が悪くなる。かといって、何も言わずにいるのも怖い。
カウンセリングでは、まず、今ご家族の間で何が起きていて、何に困っているのかを一緒に整理していきました。
「こういうときは、どう声をかけたらいいのか」
「どこまで見守っていていいのか」
といった具体的な関わり方について一緒に考えることもあります。
そして、話していく中で、ご家族自身の不安やつらさについて話題になることもあります。
「どうすればいいか」が分かっても、できないことがある

冒頭のお母さんも、そうでした。
「今は少し見守ってみてもいいかもしれない」と頭では分かっていても、「私が何もしなかったせいで悪化したらどうしよう」という怖さが強くなると、つい確認したくなる。
この「頭では分かっていても、できない」という感覚については、以前「拒食症の家族はどこまで見守ればいい?──『見守る』と『放置』の違い」でも詳しく書きました。どうしたらよいか分かっていても、心配や焦りが強いと、その通りにすることが難しくなることがあるのです。
そんなとき、「では、この言い方にしましょう」と別の言葉を覚えるだけでは、十分ではないことがあります。
だから家族カウンセリングでは、「どう声をかけるか」だけでなく、実際にはどんなところで難しさを感じているのかも含めて、一緒に考えていきます。
家族の不安や迷いも、一緒に整理することができます
摂食障害についてご家族からお話を伺っていると、「このまま悪くなったらどうしよう」という不安、「もっと早く気づいていれば」という後悔、「どうして分かってくれないの」という怒り、そして「もう疲れた」と思う一方で「でも、私が何とかしなければ」という気持ちなど、さまざまな感情が出てくることがあります。ときには、「本人が一番苦しいのだから、自分がつらいなんて言ってはいけない」と、ご自身の気持ちを抑えていることもあります。
こうした気持ちは、日々の具体的な迷いとも重なっています。
「何も言わずにいるのも心配だけれど、言えば関係が悪くなりそう」
「受診を勧めたいけれど、本人は嫌がっている」
「見守った方がいいと言われたけれど、本当にこのままでいいのだろうか」
一つひとつは本人への関わりについての悩みですが、こうした状況が続けば、ご家族自身も不安になったり、焦ったり、判断に自信が持てなくなったりすることがあります。
家族カウンセリングでは、そうした気持ちや迷いをそのままお話しいただけます。
今、何を心配しているのか。
家族としてできることは何か。
どこまで見守っていてよいのか。
どこからは医療機関や専門家に相談した方がよいのか。
一つずつ整理しながら、今の状況でどのような関わり方が考えられるのかを一緒に考えていきます。
話していくことで、「全部自分で何とかしなければ」と思っていたけれど、家族だけでは判断しなくてよいことが見えてきたり、今できることと、すぐにはできないことが分かれてきたりすることもあります。
すぐに答えが出ないこともあります。それでも、分からないことや迷っていることを、ご家族だけで抱え続けるのではなく、誰かと一緒に考えることはできます。
家族が変われば、本人が変わる――という話ではありません

家族カウンセリングというと、
「家族の関わり方が悪かったということですか?」
「家族が変われば、本人も良くなるということですか?」
と感じる方もいるかもしれません。
けれど、本人を変えるために、家族が変わらなければならないということではありません。
それでは、ご家族自身もまた「本人を良くするための存在」になってしまいます。
家族カウンセリングには、ご本人がどう変化するかとは別に、ご家族自身にとっての意味があります。
自分はどこまでならできるのか。
何を引き受け、何は自分だけでは引き受けられないのか。
本人の苦しさと、自分の苦しさを少しずつ分けて考えること。
必要なところでは医療や支援者の力を借りること。
そして、自分自身の生活も大切にしていくこと。
ご家族自身の生活が、本人の病気だけで占められてしまわないこと。
それも、家族カウンセリングで大切にしていることの一つです。
家族も、「支える人」である前に一人の人

摂食障害を抱える大切な人がいると、どうしても、「本人のために何ができるか」に意識が向きやすくなります。
もちろん、それを考えることは大切です。
けれど、ご家族にも生活があります。
不安になることもあれば、腹が立つこともあります。
疲れて、少し離れたくなることもあるでしょう。
本人を大切に思うことと、自分自身を大切にすることは、どちらか一方を選ばなければならないものではありません。
家族カウンセリングは、本人を支えるための方法だけを考える場所ではなく、ご家族自身も支援を受けることのできる場所です。
「本人をどうしたらいいのだろう」
というところから始まった相談の中で、
「家族として、今できることは何だろう」
「私はどこまでならできるだろう」
「私自身の生活も、どうしたら大切にできるだろう」
と、ご本人への関わりだけでなく、ご家族自身が無理なく過ごしていくことについても、一緒に考えていくことがあります。
ご本人の状態や、ご本人との関係が変化していく中で、ご家族が感じることも変わっていきます。そうした変化も含めて、時間をかけながら、ご家族自身のことを一緒に考えていくことができます。
摂食障害を抱える大切な人を支えることと、支えるご家族自身の生活や気持ちを大切にすること。その両方を、一人で抱えるのではなく、一緒に考えていく。それこそが、家族カウンセリングの、私が一番大切にしたい役割です。
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