【医師監修】摂食障害と生活リズムの関係|「また繰り返してしまった」の背景にあること

「また過食してしまった」

「ちゃんと食べようと思っているのに、できない」

「夜になると気持ちが不安定になって、止められなくなる」

そんなふうに、自分の食行動に苦しんでいる方がいます。

そしてその度に、「意志が弱いから」「またやってしまった」と、自分を責めてしまう。

でも実際には、食行動のコントロールが難しくなるのは、意志の問題だけではないことがあります。生活リズムの乱れが、脳と体の働きに影響して、「止めたくても止められない」状態をつくり出していることがあるのです。

この記事では、生活リズムと摂食障害がどのようにつながっているのかを、「だから自分はこうなっていたのか」と感じられるよう整理していきます。

この記事の監修医師

生野 信弘

1988年長崎大学医学部卒業。医学博士。
2001年に内科から精神科に転向後は、過食症の対人関係療法とともに、「複雑性PTSD」などトラウマ疾患を専門に外来診療を行ってきた。『トラウマからの回復』の著者でもある。

目次

夜になると、なぜ苦しくなるのか

「昼間はなんとか過ごせるのに、夜になると気持ちが崩れる」という経験はありませんか?

これには、脳の働きが関係していることがあります。

心の安定に関わる「セロトニン」という物質は、日中に日光を浴びたり、規則正しく食事をとることで分泌されやすくなります。逆に、睡眠不足や朝の光を浴びない生活が続くと不足しやすくなり、夜になると不安やイライラが強まって、「何かで落ち着きたい」という気持ちが出やすくなります。

食べることは、一時的にその苦しさを和らげてくれます。だから夜に過食が起きやすいのは、意志が弱いのではなく、脳が「今すぐ楽になりたい」と信号を出している状態なのかもしれません。

昼間は仕事や家事をこなせていても、一人になる夜の時間に気持ちが崩れやすいのは、こうした脳の働きと深く関係しています。「夜だけ弱くなる自分がおかしい」のではなく、夜はそもそも感情が揺れやすい時間帯でもあるのです。

眠れないと、食欲のコントロールがさらに難しくなる

睡眠不足が続くと、空腹感を強める「グレリン」というホルモンが増え、逆に満腹感を伝える「レプチン」の働きが弱まります。つまり、食べてもなかなか満足感が得られなくなるのです。

「お腹がいっぱいなのに止まらない」「何を食べても満足できない」という感覚は、こうした体の仕組みと関係していることがあります。

さらに、眠れないことでグレリンがより増え、そのせいでまた眠れなくなる——という悪循環が生まれやすくなります。「過食してしまう→自己嫌悪で眠れない→また食欲が止まらない」という流れには、こうした体の仕組みが絡んでいることがあるのです。

「なぜ毎晩同じことを繰り返してしまうのか」と自分を責めてきた方も多いと思います。でもそれは、意志の力でどうにかなる話ではなく、眠れないことで体がそういう状態になっていた、ということかもしれません。

食事を減らすほど、気持ちが不安定になる理由

「食べなければ、過食も起きない」と思って、日中の食事をできるだけ減らそうとする方がいます。

でも実際には、食事を極端に減らすと、脳が必要な栄養素を受け取れなくなって、気分の波がより大きくなることがあります。セロトニンをはじめとする、心の安定に必要な物質をつくるには、たんぱく質やビタミンといった栄養素が欠かせないからです。

制限すれば苦しさが減るどころか、かえって感情のコントロールが難しくなり、夜の過食が起きやすくなる。食べないことで過食を防ごうとするほど、悪循環が深まっていくのはこのためです。

「昼間ほとんど食べていないのに、夜になると止まらなくなる」という経験がある方は、脳が栄養不足のサインを出し続けている状態になっているのかもしれません。

ストレスが重なると、さらに止まりにくくなる

生活リズムの乱れに加えて、日常的なストレスや過去のつらい経験が重なると、食行動はさらにコントロールしにくくなります。

強いストレスを感じると、「コルチゾール」というホルモンが分泌されます。これは体をストレスから守るための反応ですが、慢性的に続くと血糖値が不安定になり、甘いものや高カロリーのものを強く求める状態になりやすくなります。

また、コルチゾールが高い状態が続くと、睡眠の質が落ち、セロトニンの分泌も乱れやすくなります。ストレスが重なるほど、夜の不安定さが増して、食べることで落ち着こうとする流れが強くなっていくのです。

「つらいことがあった日は特に止まらない」という感覚がある方は、ストレスがこうした形で体に影響している可能性があります。これも、意志の弱さではなく、体が反応している結果です。

ある方の話

夜中に過食を繰り返していたある方は、朝が来るたびに「もうやめよう」と強く決意していました。でも夜になると気持ちが崩れて、「またやってしまった」という自己嫌悪とともに眠れない夜を過ごす、ということを繰り返していました。

「自分には意志がない」「どうせ変われない」という気持ちが積み重なって、カウンセリングに来たときにはすでにかなり消耗している状態でした。

詳しく話を聞くと、睡眠が浅く、朝はほとんど日の光を浴びていないことがわかりました。仕事に行く時間まで部屋のカーテンを閉めたまま過ごし、帰宅後は深夜まで画面を見て、眠れないまま朝を迎えていたのです。

そこでまず「毎朝同じ時間に起きて、カーテンを開ける」ことだけを続けてみることにしました。食べ方を変えることは、最初は何も求めませんでした。

1週間ほどで、気持ちの波が少しずつ落ち着いてきました。「夜が怖くなくなってきた」という言葉が出てきたのは、それから少し経った頃のことです。過食の頻度も、気づけば減っていきました。

食べ方を変える前に、生活のリズムが整い始めたことで、体と脳の状態が少しずつ変わっていったのです。

「整える」は、ちゃんとやることではない

朝の光から始める

「生活リズムを整えなきゃ」と思うほど、ハードルが高くなってしまうことがあります。「早寝早起き、バランスのいい食事、適度な運動」——そう並べると、今の自分には何もできていない気がして、余計に苦しくなることもあります。

でも最初の一歩は、朝起きたらカーテンを開けて光を浴びるだけでいいのです。それだけでも、脳のリズムを整えるきっかけになります。光を浴びることでセロトニンの分泌が促され、夜になったときの不安定さが少しずつ和らいでいくことがあります。

小さな気づきを積み重ねる

水を一杯飲む、5分だけ外に出る、眠る前のスマホを少し早めに置く——そのくらいで十分です。

「ちゃんとできなかった」ではなく、「今日は光を少し浴びられた」「昨日より少し早く横になれた」。そのくらいの小さな積み重ねが、回復の土台になっていきます。

完璧にやろうとしなくていい。今日できる一番小さなことから始めること。それが、体と脳のリズムを少しずつ取り戻す現実的な方法です。

まとめ|「また繰り返してしまった」は、意志の問題ではない

夜になると気持ちが崩れる、食べても満足できない、制限するほど過食が増える、ストレスがあると止まらなくなる——こうした苦しさの背景には、生活リズムの乱れが脳と体に影響している仕組みがあります。

「止められない自分が悪い」ではなく、「そうなるだけの理由が体の中にあった」と知ることが、自分を責めることをやめる最初の一歩になるかもしれません。

そして、変えるために必要なのは強い意志ではなく、今日できる一番小さな一歩です。

【さらに詳しく】
生活リズムが整い始めても、回復に向かうことへの怖さが出てくることがあります。その気持ちとの向き合い方については、こちらの記事も参考になるかもしれません。

回復された方・変化を実感された方
実際の体験談を読む

体験カウンセリング
(オンライン)

この記事を書いた人

上畠 真紀
公認心理師、精神保健福祉士

経験
18年以上のカウンセリング経験(精神科・心療内科)
専門分野
摂食障害、気分障害、トラウマ、対人関係

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次