気づいたら食べすぎてしまったり、食べることが怖くなったり。
そんな自分を責めてしまう日々が続いていませんか?
食べること、食べないことに、自分でも説明できないような不安や焦りがついてまわる。
その背景には、人とのつながりの中で育まれてきた「愛着」が関わっていることがあります。
愛着とは、不安なときに誰かを頼ったり、人との関係の中で安心感を得たりすることに関わる、心の土台のようなものです。
人に頼ることが苦手で、つらい気持ちをひとりで抱え込んでしまう。
あるいは、嫌われることが怖くて、自分の気持ちを抑えてしまう。
そうした経験が積み重なる中で、食べることや食べないことが、つらい気持ちに対処する手段になる場合があります。
もちろん、摂食障害にはさまざまな要因が関わっており、必ずしも愛着の問題が背景にあるわけではありません。
この記事では、愛着と摂食障害の関係をひもときながら、過食や拒食の背景にある気持ちや、回復につながる人との関わりについて考えていきます。

上畠 真紀
公認心理師、精神保健福祉士
経験
18年以上のカウンセリング経験(精神科・心療内科)
専門分野
摂食障害、気分障害、トラウマ、対人関係
愛着とは?──人とのつながり方の“土台”
幼少期に育まれる、心の安心感のベース
「愛着」とは、簡単に言えば“人とのつながり方の土台”。
特に幼いころに、親や身近な大人との関係の中で築かれます。
たとえば、不安なときや怖いときに、誰かがそばにいて安心できた経験。
夜泣きしたときに抱っこしてくれた、熱を出したときに一緒にいてくれた
―― そうした体験が、「困っても誰かを頼っていい」「助けてもらえる」という感覚を育てます。
一方で、泣いても放っておかれた、怖いときに見て見ぬふりをされた、 気持ちを否定された
――そんな体験を重ねると、 「感じるのは危ない」「誰にも頼れない」と感じるようになるかもしれません。
安心できない関係が、感情や人との距離感に影響する
反対に、安心できる関係が築けなかったり、
気持ちを受け止めてもらえなかったりすると、
「頼ったら迷惑かも」「感じるのは危ない」と思うようになってしまうことがあります。
その結果、人との距離をうまく取れなかったり、
過剰に合わせすぎてしまったり、
反対に誰にも近づけずに孤立してしまったりすることもあります。
感情の調整と愛着の関係
感情の調整とは、感じた気持ちを必要以上に抑えすぎたり、
逆に爆発させたりすることなく、自分の内側でうまく扱えるようにする心の働きです。
心理学では「情動制御(エモーション・レギュレーション)」と呼ばれ、
発達心理学の観点からも、幼少期にどのように周囲の大人と関わったかがその力の土台になると言われています。
感情調整の力をわかりやすく説明すると、「心の中の温度計」のようなものです。
熱くなりすぎたら冷ます方法を知っていて、冷えすぎたら温めることもできる。
そんな温度調整機能を、子どもは周囲との関わりの中で少しずつ身につけていくのです。
感情を受け止めてもらえる体験が土台になる
人は誰でも、怒ったり悲しくなったり、不安になったりします。
その強い感情をどう扱うかは、子どもの頃の人間関係の中で自然と学んでいきます。
たとえば、泣いているときに「怖かったんだね」と大人が受け止めてくれると、 「感じてもいいんだ」と安心でき、感情を調整する力が育っていきます。
愛着と食行動は、どのようにつながっているのか
不安や寂しさ、怒りなどの感情を抱いたとき、私たちは誰かに話を聞いてもらったり、気持ちを受け止めてもらったりすることで、少しずつ落ち着きを取り戻すことがあります。
けれども、人に頼ることが難しかったり、自分の気持ちを表現することに不安があったりすると、つらい感情をひとりで抱え込んでしまうことがあります。
また、感情を否定されたり、受け止めてもらえなかったりする経験が重なると、「感じてはいけない」「感じたくない」と、自分の気持ちを抑えることが習慣になる場合もあります。
そうしたとき、食べることで気持ちを落ち着かせようとしたり、食べることを制限することで安心感やコントロール感を得ようとしたりすることがあります。
つまり、愛着と食行動の間には、不安やつらい感情にどのように対処するかという、感情調整の働きが関わっている場合があるのです。
例えば、
「何がつらいのかわからない」
「“大丈夫”が先に出てくる」
「自分の気持ちが見えにくい」
といった感覚を抱えている方もいます。
食行動の背景を理解するうえでは、こうした自分の感情との関わり方に目を向けることも、一つの手がかりになります。
ただし、これは摂食障害の背景にある仕組みの一つであり、すべての人に当てはまるわけではありません。
そうした「感情との距離」については、こちらの記事でも詳しくお話ししています。

過食・拒食に込められた、心のメッセージ
過食に隠れている「満たされなさ」と不安
過食には、「さみしい」「満たされたい」「誰かに寄り添ってほしい」といった、不安や孤独を埋めようとする心の動きが隠れていることがあります。
その行動の奥には、「誰かにわかってほしい」「自分の苦しさに気づいてほしい」という切実な気持ちがあることも少なくありません。
たとえば、Aさん(仮名・30代女性)は、
仕事のプレッシャーや人間関係のストレスで心がいっぱいになると、帰宅後、無意識に食べ物に手が伸びてしまうそうです。
「お菓子を食べている間だけはホッとする」
「何も考えなくてすむ」
と話してくれました。
ただ、食べ終えたあとには決まって後悔や罪悪感が押し寄せてきて、「またやってしまった」と自分を責め、涙が止まらなくなることもあるといいます。
Aさんは、「過食は悪いことだ」と感じつつも、
それがやめられないことでさらに自己否定を強めてしまう悪循環に陥っていました。
話を重ねるうちに、過食の前には「誰にもわかってもらえない」「ひとりで抱えてつらい」といった孤独感や無力感が強まっていることに気づいていきました。
実は、Aさんは子どもの頃から「がんばり屋さん」と言われることが多く、弱音を吐いたり、助けを求めたりすることが苦手でした。
どんなにしんどくても「大丈夫」とふるまうクセがついていたそうです。
けれど、大人になっても「がんばらなければ愛されない」という思いが根強く残り、無理を重ねてしまう。そんなとき、過食は「心が限界を訴えるサイン」として現れていたのかもしれません。
過食という行動は、心の苦しさを一時的に和らげるための自己防衛の手段でもあります。
その奥にある「気づいてほしい」「安心したい」という思いを見つめることが、とても大切なのです。
拒食に込められた「コントロール」と自己防衛
Bさん(仮名・20代女性)は、
幼いころからまわりの反応に敏感で、「どうすれば喜ばれるか」を常に考えて行動してきました。
表向きは明るくしっかりした印象を持たれやすい一方で、自分の本音を出すことにはためらいがあり、「がっかりさせたくない」という気持ちが強くあったといいます。
子どもの頃、何気ない一言を気にして落ち込むことがよくあり、自分の言動が人にどう影響するかに敏感だったそうです。
気づけば、まわりの期待に応えることで自分の存在価値を感じようとしていたのかもしれません。
思春期には、「完璧でいたい」「期待を裏切りたくない」という思いが強まり、次第に食事を減らすようになりました。
彼女にとって、食をコントロールすることは、外からの期待や評価に揺さぶられ続ける日々の中で、唯一自分自身を守れる手段だったのです。
その背景には、安心して甘えたり、弱さを見せたりする経験がうまく育たなかった愛着の傷があることも考えられます。
「ありのままの自分でいても、受け入れてもらえる」 という感覚が十分に育っていなかったとすれば、食のコントロールを通じて「理想の自分」を保とうとするのは、自然なこころの動きなのかもしれません。
食べ方の背景には、つながりの痛みがある
このように、拒食も過食もただの問題行動ではなく、 心が自分を守ろうとしてきた“対処のかたち”なのです。
それぞれの食行動の背景には、「つながりたいのに、うまくつながれない」 という切実な心の痛みがあるかもしれないことを、どうか忘れないでください。
愛着の傾向から考える、食行動の背景
ここまで、過食や拒食の背景にある気持ちについて見てきました。
こうした食行動の意味を考えるとき、「人とのつながりの中で、不安やつらさをどのように扱ってきたか」という視点も役に立つことがあります。
ただし、愛着スタイルによって「このタイプなら過食」「このタイプなら拒食」と決まるわけではありません。同じ食行動でも、その人によって背景にある気持ちは異なります。
不安が強くなると、安心を求めたくなる
人とのつながりに不安を感じやすい人は、「嫌われたかもしれない」「見捨てられるかもしれない」といった不安が強くなったとき、そのつらさをひとりで抱えることが難しくなることがあります。
けれど、誰かに安心を求めることもうまくできない。
そんなとき、食べることで一時的に気持ちを落ち着かせたり、孤独感や不安から離れようとしたりすることがあります。
人に頼らず、自分でなんとかしようとする
一方、人に頼ったり、弱さを見せたりすることに慎重な人もいます。
つらいことがあっても人に助けを求めず、「自分でなんとかしなければ」と抱え込みやすい。その中で、自分の身体や食事を厳しく管理することが、安心感や「自分でコントロールできている」という感覚につながることがあります。
また、食事を制限する場合だけでなく、誰にも見せずに過食するなど、食べることでひとりで感情を処理しようとすることもあります。
「つながりたい」と「傷つきたくない」の間で揺れる
人とのつながりを強く求めながら、同時に「近づいたら傷つくかもしれない」「頼ったら拒絶されるかもしれない」という怖さを抱えている人もいます。
誰かに近づきたい。でも、近づくのは怖い。
そんな相反する気持ちの間で揺れていると、強い感情をどう扱えばいいのかわからなくなり、食べることや食べないことが、そのつらさをしのぐ方法になることがあります。
過食と食事制限を行き来することもありますが、それだけで特定の愛着スタイルだと判断できるわけではありません。
大切なのは、「自分は何型だから、こうなんだ」と当てはめることではありません。
「食べたくなったとき、私はどんな気持ちだったのだろう」
「食べないことで、何を保とうとしていたのだろう」
「そのとき、人との関係の中で何が起きていたのだろう」
そんなふうに、自分の食行動と、人とのつながりや感情との関係を少しずつ見ていくことが、自分を理解する手がかりになります。
それはあなたのせいじゃない
「こんな自分はおかしい」「弱いんだ」──
そうやって自分を責めてしまうこともあるかもしれません。
けれど、食べることや食べないことが、つらい気持ちを何とかやり過ごすための対処になっていたのかもしれません。
感情を感じないようにすること。
食べないことで、心のバランスを保とうとしてきたこと。
それは、苦しさの中で自分なりに何とかしようとしてきた、一つの方法だったのかもしれません。
「ここまで生きてきた自分」を責めるのではなく、「よくやってきたね」と、そっと声をかけてあげること。
そこから、少しずつ回復への道が開けていくこともあります。
回復の入り口:安全なつながりを取り戻す
ただ「食べられるようになる」だけでは足りない
摂食障害の回復というと、「きちんと食べられるようになること」がゴールのように思われがちです。
もちろん、栄養状態や食行動を整えていくことは、回復の大切な土台です。
その一方で、食べることの背景にある心の苦しさにも目を向けることで、回復がさらに進んでいく場合があります。
たとえば、誰にもわかってもらえなかった気持ちや、
自分の気持ちを否定され続けてきた日々、
頑張っても認めてもらえなかった孤独感……
そうした思いを抱えたままでは、「とにかく食べればいい」と言われても、心が置き去りになってしまいます。
回復の過程では、「食べることや食べないことだけに頼らず、つらい気持ちと向き合える」という力を、少しずつ育んでいくことも大切です。
そして、その力は、「ひとりで抱え込まなくてもいい」と感じられる、安心できる人とのつながりの中で育まれていくことがあります。
「頼ってもいい」と思える経験が、心の土台になる
「わかってくれる」「ここにいていい」と思えるような安全な人との関係が、 回復を支える大切な土台になります。
たとえば、「本当は食べたい。でも怖い」と言葉にしたとき、否定されずに「怖いよね」と共感してもらえた瞬間。
その体験は、「感じてはいけないと思っていた気持ちを、安心して出してもいい」と思えるきっかけになります。
また、信頼できる友人やパートナーに、「つらいときにそばにいてくれてうれしかった」と伝えた経験が、「頼っても大丈夫」という感覚を育てていくきっかけになることもあります。
さらに、自分自身が誰かにつらい気持ちを打ち明けられ、そばにいることで相手が安心した──そんな経験をしたとき、人は「弱さを見せることも人をつなぐ力になる」と実感します。
その体験は、「人は支え合っていいんだ」「弱さを分かち合うことで関係は深まるんだ」という感覚を育て、やがて「自分もつらいときには誰かを頼っていい」と思える力へと変わっていきます。
支えることも、支えられることも、どちらも人とのつながりの中にある自然な営み。
そうした経験の積み重ねが、「食べる・食べない」でしか表現できなかった気持ちを、人との関係の中で共有できる力へと変えていきます。
「もう、ひとりでがんばらなくていい」と思えること──それが、回復の入口。
そしてその第一歩を支えるのは、「安心して頼れるつながり」という心の土台なのです。
おわりに:食べる/食べない、その奥にあるもの
摂食障害は、「食べる」「食べない」という行動だけでは捉えきれない、さまざまな背景を持っています。
その中には、人とのつながりの中で感じてきた痛みや、「わかってほしい」という気持ちが関わっていることもあります。
だからといって、「なぜそうなったのか」「どうしてそうせざるを得なかったのか」を、最初からはっきりさせる必要はありません。
無理に答えを見つけようとしなくても大丈夫です。
食行動の背景にある気持ちや経験に、少しずつ目を向けていく中で、これまでとは違う視点から、自分を理解できるようになるかもしれません。
焦らなくて大丈夫。
あなたのペースで、自分の気持ちとつながり直していけますように。
【さらに詳しく】
また、過食には、単に「食べたい」というだけではなく、緊張を落ち着かせたい、孤独をまぎらわせたいなどといった気持ちが隠れていることもあります。食べることでしか落ち着けなかった背景については、こちらの記事でも詳しくお話ししています。

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